(初めての記事作成です。以前PCに書き留めた文章があったので、手始めにそれを記事にします)
その日は早朝6時半に小学校に来ていた。貴重な休日が選挙事務(投票事務)でつぶれる。
汗だくで太っちょの学校事務員。常に不自然な笑顔を浮かべているがっちりした主査。頼りになりそうでならなそうな投票管理者。
かわいい区役所の女の子。アルバイトのちょっとでしゃばり気味なおばあちゃん。
僕が担当の名簿対象係は投票に来た人が持ってくる入場券と手元の選挙人の名簿を照らし合わせて、
その人に投票権があるか確認する仕事だ。
名簿をぺらぺらめくり入場券に書いてある番号と名前を探す単純作業。
初めは緊張したけど、30分もすればもう慣れてきて少し楽しくなった。
投票所が開場するときに既に並んで待っている人がいるなんて初めて知った。
朝イチでばたばた流れ込んでくる人たちを捌くともう余裕が出てくるから、ぼーっと思索に耽る時間も久々堪能できた。
となりのおばあちゃんは午前10時には来場する人への挨拶を「おはよう」から「こんにちは」に変えてたし、
日の入りが午後7時くらいの今の時期だけど午後5時には「こんばんは」に変えようとしてた。
『もうこんばんはだよね?』と僕に相談してきたけど、『迷うところですね』と答えた僕の心の中では
『(暗くなる前はこんにちはだ)』という強い気持ちがあった。
だけど年配の方をたてなければいけないという、恐らく特段必要もない気を遣い午後5時半には「こんばんは」に切り替えたのだ。
そんなような、おばあちゃんとの間の密やかな攻防(僕の中だけの)があったのだけど、
お昼休憩の時間がたまたま重なり二人で体育館のステージの暗幕の裏に用意されたこじんまりとした机と備え付けられた椅子に
ちょこんと座ったのだった。
そこでおばあちゃんは今放送大学に通っていること。久しぶりに今日みたいなアルバイトをしたこと。
朝早く起きる必要がなくなったこと(もしかしたら旦那さんが亡くなったということだったのかもしれない。理由は聞かなかった。)。
いろいろな話を聞いて、僕は愛想よく静かに相槌を打った。
名簿対象係は投票所を訪れた人の最初の受付だから、入口のすぐそばに座っているし、その入口も開けっぴろげになっている。
曇り空で気温も低く朝からずっと寒い思いをしてた。
そんなことをおばあちゃんに話したら、持参してきた水筒に入ったホットコーヒーを分けてくれた。
それから「休憩時間短くて食べきれないから」と言って、ぶどうもひと房の半分くらい分けてくれた。
挨拶を「こんばんは」に変えた頃くらいに、おばあちゃんが寒がる僕にウインドブレーカーを貸してくれたときには、
なんとなくこのおばあちゃんと仲良くなれて良かったなぁと思ったのだった。