もう1つの理由は
この手で兄を殺し
白露を裏切り
屋敷を出奔したあとに出会った
僧侶と巡り逢わんがため
結果として
あのお人好しのクソ坊主もとい
高野聖(コウヤヒジリ)・蓮章は
転生していなかったけど..
聖も転生しているものとばかり
思っていた当時の私は
師の霊視結果に
心底ガッカリしたものだ
けれど
彼は転生していない。
今は高野山で
空海様に食事を運ぶ
修行の日々を送っている
師のその言葉に
胸も涙もいっぱいで
半年かけて準備をし
逢いに行った
今世の自分の全てを
肩書きも地位もプライドも
まさに
かなぐり捨てた行動だった
師匠からは再三反対された
私の魂には
ヒビが入っているそうだ
始祖・御門影正の生きた
1200年前
時の帝と朝廷を呪うため
自分に施した呪がもとで
魂が崩れかけている
もう一度転生すれば
粉々に砕けるだろう
そう言われてた
師匠には見抜かれていた
私がもう
滅びたがっていることを
だから当時
何度も何度も説得された
「今のあなたには親がある」
「彼は添い遂げられる伴侶ではないし
生者と死者
これ以上
互いにどんな変化も齎さない」
聖と生きるということは
私にとって
『穏やかな死』を意味する
魂的な意味だ
肉体は天寿を全うするとしても
その魂は
修復することが出来ないので
最期は砕け散る
二度とこの世に現れる事はない
本当の『消滅』
けれど当時の私は
壊れかけた魂を修復するよりも
塵となって風と成って
聖の頬を撫ぜている方が
幸せに思えた
聖は
私の『救い』なんだ
400年前、兄を刺し殺し
汚れた体を持て余して
死のうとしていた私に
彼はただ一言
『来るか?』
霊能力のせいで
化け物扱いされていた自分にとって
母以外の人間から受けた
初めての温かい心
それから聖が亡くなるまでの
2年の間に
彼からもらったモノは
あまりに多く
たとえ貧しくとも心豊かで
温かく
それまでに転じてきた
どの人生の中でも
最も幸せな生を与えてくれた
私に『穏やかな死』を
齎すのが聖なら
私にとって
それは『救い』だ
私を救える者がいるのなら
それは
聖以外にいないのだ
無表情で無機質で
死の化身のような白侶
それなのに
齎される結果は逆という
続