4.戦う理由6 | 風の痛み  Another Tale Of Minako
SCENE 6

「ボシュコ、休憩してていいぞ」
ビェラクが声をかけた。
「お言葉は、ありがたいが、今さら寝ろといわれてもな」
ボシュコは時計を見た。
交代の時間まで後1時間だ。

ボシュコは、乾パンをかじりながら、表通りが見える位置に座って銃の手入れを始める。
自分の銃の手入れは寝る前に終えている。
ボシュコが握っているのはベレッタM951、サーニャの拳銃だ。
ビェラクは、通りとは反対側の裏通りに目を凝らした。
高い建物はない。
狙撃される心配は要らない。
(来るとしたら、裏の出入り口。駆け抜けられたら、狙撃は無理だ。とすれば、階段か…)
ビェラクは、階段を上から狙える場所に移って裏の通りを警戒した。

男達が、何事もなかったかのように位置につくのをサーニャはただじっと見ていた。
動けないわけではないが、動きたくなかった。
お腹もすいているし喉も渇いているが、目の前に置かれた水も食料も食べる気にならない。
ただ、毛布をかけてくれたのはありがたかった。
また、レイプされると思っていたが、今のところそれもなさそうだ。
ふっと緊張の糸が途切れ、サーニャの意識はすーっと消えていった。

「少尉、もうすぐ定時の巡回です」
ビェラクから報告だ。
「そのようだな」
衛兵の交代じゃあるまいし、警備の兵が、毎日同じ時間に巡回したのでは、警備にならないのだが、やつらは何もわかっていない。
「ビェラク、俺と代われ」
「了解」
「女はどうしている?」
「眠ってます」
「そうか…」


ガチャという金属音にサーニャは目を覚ました。
男がいた。
サーニャに背を向けて座っているが、おそらく別の男だ。
たぶん銃の手入れをしているのだろう。
さっきいた男も銃の手入れをしていた。
不思議な男達だ。
ここ数日、サーニャが出くわした男達は、女がいれば、まず女を犯した。
サーニャは裸のまま連れてこられたが、何もされてはいない。
この男も、裸の女を前にして銃の手入れをしている。

「起きたのか?」
(えっ?)
男はサーニャに背を向けたまま一度もサーニャを見ていない。
サーニャは目を開けただけで、数ミリも動いてはいない。
男は、立ち上がりコーヒーをサーニャの前に置くと、タバコを咥えたまま器用にシャツを脱いだ。
(ああ、やっぱり)
やはり皆同じなんだとサーニャは身構えた。
男は背中を向けて、元の位置に戻って濡らしたタオルで身体を拭き始める。
男の背中いっぱいに鬼のようなものが彫られていた。
圧倒的な質量を感じさせるたくましいからだ、大きく開かれた口、そして威圧する目。
ただ、その目は、どこか優しい。
サーニャは、男の背中に見入った。
「刺青だ。珍しいか?」
(この人、いったい…?)
背中の目でも、ものが見えるのかもしれない。
「フドーミョーオーというらしい。東洋の神という話だ」
男は、他人事のように話し、再びサーニャに近づいてくる。

「向こうを向いて四つんばいになれ」
怖いわけではないが、サーニャはなぜか逆らえなかった。
「尻を突き出して」
言われたとおりにした。
男の指が、サーニャの性器の襞を掻き分ける。
男は、そこに何かを塗った。
「うっ」
ひやっとして、少ししみた。
同じことをお尻の何か所かでされた。
「殺菌と化膿止めだ。中まではわからん」
(サッキン?カノウドメ?…手当て?)
サーニャは、驚いて振り向いた。