誕生日前日の最後の夜も渋谷の駅に降り立った。
この駅に初めて降りた時から、もう15年以上の歳月が経つのか、と少し感慨に浸りながら。
考えてみれば、夢を描くきっかけ、感動をもらう始まりになるのは、この駅が多い。

中学のときに行った尊敬するアーティストのコンサート。
高校のときに通っていた憧れのアーティストたちがひいきにしている楽器屋。
本格的に曲を作り始めて、プロデューサーに批評をもらったレコード会社。
大学になって通った司法試験予備校。
就職してから長野で始めて、修了した英会話学校。
初めて行ったoasisのライブ。
海外ドラマやoasisのことをもっと理解したくてもう一度始めた英会話。

大切な思い出は、いつもここ、渋谷から始まっている。
そして、その感動を胸に抱きつつ歩いていたのは、いつもこの街だった。
いつも私にエネルギーをくれる場所、それが渋谷なのだ。
15年以上たって、街並も街行く人も変わった。
私自身も最近は銀座やら六本木やらで新しい出来事に出会うことは多いけれど、やっぱり渋谷はちょっと違う。
こういう感覚を持てる街は、渋谷以外には地元とロンドンだけだ。

そんな渋谷にここ数年でリストに加わった大切なお店がある。
渋谷の喧噪を離れて、急な坂道を登りきったところにたたずんでいる一軒のフレンチレストラン。
ここは、今は主人となった相方が付き合い始めた最初の記念日に連れて行ってくれたところだ。
そんなに広くはないけれど、厳選された必要最低限のインテリアが並べられた店内。
隅々まで手入れが行き届いていて、温かい照明が点されている空間は、入っただけで落ち着く。

以来、何かの記念日にはここでお祝いすることが多い。
いわば初めて2人で行きつけになったレストラン。

昨日はそこで1日早い誕生日のお祝いをしてもらった。
平日ということもあって、店内は私たち2人だけ。

貸し切り状態で、目にも鮮やかな料理が次々と運ばれてくる。
私たちのためだけに料理してくれる音に耳を傾ける幸せ。
口に運んだときに広がる幸福感。
とっても寒い夜だったけれど、私の心の中はとっても温かい思いでいっぱいだった。

今年は、私にとってあまり良い年ではなかった。
だから、誕生日を祝う気分にもなれないでいた。

しかし、考えてみれば、嬉しい出会いもたくさんあったし、どんな状態でも周りにいてくれることが再認識できた家族や友達がいた。

そして、最後の夜に感じた胸いっぱいの温かい思い。
結婚して家族が出来る幸せというのはこういうことなんだ、そう、しみじみと感じることができた。

今日は昨日とうってかわって晴天だ。

昨日レストランのテーブルに1輪のバラとともに飾ってあったメッセージカード。
「JOYEUX ANNIVERSAIRE!!」

今日は素直にその言葉を喜ぶことが出来る。

太陽も味方してくれた、新しい年齢を迎えるにあたっては最高の日。
この思いを忘れずに、笑顔の詰まった1年にしたい。