備忘録ついでの読書感想文。こっそりひっそり更新しています。



●伊坂幸太郎『死神の浮力』

短編集だった『死神の精度』の続編で、こちらは長編。

まずは死神について。死神の仕事は対象者に七日間同行し、その者の死を「可」か「見送り」か決めること。死神は皆ビジネスライクでとてもドライ。人間に特に干渉もしないし、感情移入もせず淡々と仕事をこなすので、基本的には「可」となり調査が終了した八日目に対象者は死ぬことになる。

死神、千葉の特徴
・大の音楽好き
・ちょっとズレてる

小学生の娘をサイコパスに殺された夫婦のもとに、死神の千葉が訪ねてくるところから物語は始まります。

夫婦は無罪判決が出され釈放された犯人に復讐を企てており、いよいよ実行に移そうとしていたため、千葉もそれに同行します。サイコパスの犯人は常に先手を打って攻撃を仕掛けてくるので復讐計画はなかなか上手くいかず、むしろ危険な目にばかり遭うはめに…。そんな夫婦と共に過ごすスリリングな七日間。

千葉がやってきたということは…夫婦のどちらかに死が迫っているということ。夫と妻、どちらが死ぬのか?この復讐劇は成功するのか?この計画によって夫婦のどちらかが死ぬことになるのか?サイコパスである犯人の本当の目的とは?途中で千葉が出会う同僚(死神)は一体誰の担当なのか?

などなど、ミステリー要素はしっかりありますが、千葉のズレっぷりも健在です。昔から仕事をしているため、大名行列に参加した時の様子を懐かしみながら話して、周囲をきょとんとさせるシーンもあり。

「会社人間」という言葉を聞いて「会社なのか人間なのか」と戸惑ってみたり。デスクは机という意味と、編集社などの役職で使われるが、イスという役職はないのか?と変な疑問を持ったり。

爆弾処理を簡単にやってのけて、何でそんなことが出来るのかと問われ「危険物取り扱いの資格を持っているからだ。実家がガソリンスタンドで」とわけの分からない言い訳をしてみたり。

自転車で車に追い付いちゃったり!

一人娘が殺されたこと。犯人が無罪となり釈放されること。マスコミの連日の追求。これらにすっかり憔悴していた夫婦は、ちょっとズレていて全てのことに無関心な千葉にどこか心救われていたりします。

個人的な感想としては、やはりシリーズ1作目の方が好き。ヤクザの兄貴、根暗なOL、ストーカー事件と若者の恋、千葉の正体がなぜか分かる老人、雪山での密室殺人など短編がいくつかあり、それぞれ全てが面白かったし、この別々の話が最後に少しリンクするあたりが秀逸で。

今回は一作目と違い内容が重いせいか、なかなか読み進まなかったなぁ。7日間を描いているのに、4日目くらいまで全然エンジンがかからなくて…。この作家さんの本はテンポが良いから一気に読んじゃうことが多いので、読み終わるのに一番時間がかかりました。

千葉はユーモアがあり(本人は大真面目ですが…)、とても魅力的なキャラクターなので、なんだかんだ言いつつも続編が出たらまた読んじゃいそうニヤリ