以前勤めていた職場での事だ。
とある新人が入社してきて僕の後輩になった人がいる。
その人はワタナベという名で、僕よりも2つ年上だった。以前は地元のスーパーで働いていたらしく、地元の国立大を卒業してるという経歴の持ち主だった。
はっきり言ってしまうと、僕が当時働いていた職場は肉体労働寄りで高卒で働いている人が多く、所謂”Fラン大卒業”なんて学歴ならまだともかく国立大学を出てまで入社するような職場でも業務内容でもないのだが、彼はそこに入社してきた。
入社して一ヶ月ほどして、彼も業務内容と同僚に慣れ始めたころになって趣味の話になった。
僕が麻雀が好きだと話すと、彼も大学生のころに雀荘通いにハマっていたと話してくれた。
「じゃあ近いうちに一緒に打ちますか」
なんて冗談半分でお互いに言って笑いあっていたのだけれど、とんとん拍子に話は進んでそれからひと月もしないうちに卓を囲むこととなった。
メンツは僕と彼と、その時仕事でお付き合いさせてもらってた得意のお客様とそのかたの友人といったメンツだ。
その翌日が休みということもあって、場所は職場近くの雀荘で時間は仕事終わりの21時開始となった…ハズだった。
ハズだったというのは、約束の時間になってもワタナベさんがこなかったからだ。
仕事が終わったのは同じ時間で、車はお互い別々だったのだが目的地は一緒だったはずだ。職場に近い雀荘を選んだこともあって、車で10分もかからないはずなのだが30分を過ぎてもワタナベさんは一向に姿を見せなかった。
さすがにどうしたのかと電話をかけると、道に迷ってしまったのだと彼は答えた。
一緒に打つことになった得意のお客様は菊田さんというのだが、普段はすごく優しい人なのだが見た目はちょっとコワモテな30代のお兄さんだった。
そんな菊田さんもさすがに少しイラツイていたのだろう。
「ちょっと俺に電話貸せ」と電話を代わり、なんで迷ったのか、どこにいるのか-と捲し立てた。
それから15分程で彼がきた。
実は、彼がこんな様子なのは普段の仕事ぶりからしてそうなのである。
遅刻や突発的な休みなど日常茶飯事で、その言い訳も『車が田んぼに落ちた』『祖母が亡くなった(3人目)』『前の職場から急に出勤してくれと頼まれた』など呆れてしまう言い訳が多かった。
仕事内容も丁寧とはいえず、やってないことをやったと言い、やったことをやってないといったりと虚言的なことが多かった。
だから1時間近く遅刻しても、遊びでもこの調子なのかと僕の呆れ果ててしまっていた。
前置きが長くなってしまったけれども、勘の良い人ならもうお気づきになったかもしれない。
肝心の麻雀がおざなりだった。
点数計算ができないとかそんなレベルではなく、基本動作がおぼつかないのである。
4面子1雀頭というのはわかっているようなのだったが、役がいまいちピンとこないようだった。
そのせいかリーチにも無警戒で放銃し、あがるときも恐る恐る手を開いて他の人役と点数を聞いていわれるがまま点棒を払うといった感じになってしまっていた。
それでよく学生時代は雀荘通いしていたと豪語できたなと麻雀を打ちながら呆れてしまった。
他の二人も今更やめようとはいえず、その状態のまま約束の明け方まで打ち続けた。
結果といえば当然彼の一人負けだった。
レートもそこまで高くなかったのだが、彼一人で1万5千円ほどの負けになっていた。
トータルトップはお得意様である菊田さんの1万円勝ち。僕は二着の5千円勝ち。もう一人の菊田さんの友人はプラマイゼロといった感じだ。
彼のレベルでは仕方ないといった内容だったのだが、驚くべきは彼はその時手持ちが1万円しか持ってきていないということだった。
仕方なしに僕の5千円を貸しにして、お客さんである菊田さんへ1万を支払うようにして解散となった。
「休み明けにお渡ししますよ」
そう言って別れたはずだったが、週明けに彼からお金を渡されることはなかった。
「先週はお疲れ様-」とさりげなく声をかけてみたのだが、「お疲れ様でした」という返事があったきりでそれきりとなってしまった。
僕が忘れているということにして、有耶無耶にする気だったかどうかは分からない。
程なくして彼は仕事をやめた。
上司に大激怒された翌日に電話一本で出社しなくなった。
叱責の内容は『業務内容に支障が出るほどの虚言が多すぎる。なんとかならんのか』という事だったらしい。
恐らく、麻雀を打てると言ったことも学生時代雀荘通いしていたとことも全部嘘だったのだろう。なんなら学歴すらも詐称していたのではと疑ってしまう。
なぜそこまで虚言で身を固めたかったのか僕にはわからない。
けれどあの麻雀を打って思ったのは、この人とはもうかかり合わないほうがいいだろうなということだった。
言及しなかった5千円は僕なりの縁切り料のつもりだった。
彼のプライドが虚言を作っていたのかもしれないけど、結果として最低の印象を残してしまう結果になったの本末転倒だと思う。
きっと一生彼はそうして生きていくのだろう。
それが彼なりの生きていき方だとするなら、けどそれは五千円の価値しか無い-。
僕の生き方はいくらかなぁとふと思う。
周りの評価はからいものだ。
