妻の浮気 11 最終章
朝方まで考え続け 答えなんて出るわけがない。と 茜は呟いた
どの答えを出したって 苦しみが伴うのだ。
夫と 一生をやり続けるのは 自分が可哀想すぎる。
話し合いをしたところで 何を話し合うのかさえ 分らないし 夫もそうだろう。
変わって欲しいと 願いを伝えるにしても どこを? 何を? 俺の人生そのものを?
という話にしか ならない。 私が変わるとしたら 何を? 夫のために?
私が変わりたいのでも 夫を変えたいのではない。
相手を変えたいのだ。
一度は 終わらせた信哉だが あのとき終わらせたのは お互いが どれほど必要か
再確認するための 長すぎる旅だったのではないかと 考えるようになった。
これほどまでに 求めあう存在はいないのだと 再会してから それだけを確認しあった。
身体も心も 12年前より ずっと強く結びついている。
信哉の肌の湿っぽさを 思い出すだけで 自分の下半身には
彼にだけ疼く 芯があるのだと思えるほどだ。
生まれ変わったら 一緒になろうね などと言えないと 茜は疲れた心に話しかけた。
それなら 夫の手を放して 信哉の手を繋ぐしかないのだ。
子供と信哉の距離は いつしか 縮まってくれるかもしれない。
ナニカに努力するのなら ナニカに苦しみ続けるのなら夫を受け入れることより
信哉と子供の距離を埋めよう。
夫を 子供たちの父親だから という理由だけで 特別視できた頃の自分が
懐かしいとさえ思えた。
二度と 見ることの出来ない 流れていった過去の風景のように。
茜は まだ明け切らない朝焼けの中 子供たちの身支度を整え 順番に抱いて階下に下ろした。
実家には もう何も自分のものはないだろう。
タクシー呼ぶ前に 信哉に電話をした。
『子供と そっちに逃げてもいいかしら』
一瞬の躊躇を見せた信哉だったが 一時的にではない と茜が言うと 声を出して笑った。
『願ったり叶ったりだ。』
『いいことばっかりじゃないよ。 子供 いるんだし。』
『茜が 俺に遠慮さえしすぎなければ 物事は たいがい上手くいくと 思うよ。』
茜は その言葉を信じきろうと 心に決めた。
感じていること 思っていることを 言葉にした時 その重さと大きさとぬくもりを
同じように感じてくれる相手。 それは 信哉しかいない。
タクシーが到着し 寝ぼけた子供たちを抱きかかえ 茜は乗り込んだ。
.洗面所の電気が灯り 母親が窓を開けた。
茜は 乗り込みかけたタクシーから 身体を戻し 深くお辞儀をした。
怒りに満ちていた 先ほどまでの母の瞳は 何故か 澄んでいるようにも 思えたし
そうだと 思いたかった。
信哉のマンションを告げ 茜は両手に抱きしめた子供たちに
『新しいおうちに行くことにしたよ。 色々 聞きたいことがあったら なんでも聞いて。
なんでも ちゃんと答える。 ママをさ 新しいママにならせてくれる?』
と 声をかけた。 次男が
『新しい家って Wii Fitある?』 と聞いた。
『ないけど 買おうか。』
長男は 寝ぼけた顔で パパは? と言った。
茜は 両脇に抱えた二人を抱きしめて ごめんね と答えた。
『もしさ これから 何があっても ママは 2人と一緒にいたいなって思ってる。
だから 明日 ゆっくりママの話 聞いてくれる?』
ナニカを察したのか 長男は 茜の顔を 睨み付けた。
『もうさ 何も隠さないし 2人の望むとおりにするよ。
パパと暮らすほうがよければ それでもいいし。嘘も隠し事も なんにもなしにする。』
『ママは もう どっかにお泊りには 行かなくなる?』
もちろん と答えてから 茜は長男の肩を 手でぎゅっと 抱きしめた。
『絶対に。』
明日のことなんて 誰にも分らない。
人の気持ちが 変わるか 変わらないかだって 分らない。分るのは 今日の自分だけ。
自分以外の ちょっとの人が 自分を大事に想っててくれたら
それで きっと 幸せなのだ。
私も 大事に思える人を 大事にしていきたい。
誰かを 守った分 誰かを傷つけた。
その罪を どう受けるのか 人生の神様に向かって サイを投げたのだ。
茜は 明け行く朝焼けに向かって進む車窓に向かって 息を深く 吸い込んだ。
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みみぴのぼそっとでっかい独り言 で書いていたものを
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当時 浮気を本気させる物語を書こうって思って書きましたが
今読み返すと なんてひどい話だって思います 笑
いつか酷い目にあうぞ って耳打ちしたくなる 笑