妻の浮気 6 | みみぴの小説ブログ

妻の浮気 6

片山信哉は 携帯を握り締め しばらく考えた。


茜からの連絡を 12年間待っていた気がする。 その夢が 現実としてここに起きている。


しかし わかっているのだ。


この連絡が 未来を輝かすきっかけでは ないと。。。





この数日 幾度なく思い出した 茜との情事。 茜の言葉に 茜の表情。



密室で 惜しげもなく見せた 大胆な動きや喘ぎ声は 12年前の若かりし茜とは違い


熟成されつつある女にしかない 艶やかさと愛おしさだった。


何度でも受け入れたいと 願えば願うほど 茜は二度と 戻ってこないだろうとも 思うのだ。




理由は 夫への背徳感より きっと 母性だろう。




もし 母親になったら 絶対に専業主婦になる。子供と向かい合った母親になる と


若い頃から 夢を描いていた茜だ。 幼少期に抱いた 一瞬の哀しみから解放されるためにも


茜は きっと遣り通すだろう。 信哉は 悲しいほど 茜の気持ちを胸に描いてみてから


携帯を閉じようかと思った。




しかし 声を聞きたいし 話をしたい。 手繰り寄せた糸が どこに繋がるのか 興味だってあった。


『もしもし』


茜の声を聞いた瞬間 後悔した。 いい話なんかじゃない。


また ふられるのだ。 いい年して また初恋の女に 捨てられるのだ。


仕事では 何事もプラス思考に考える癖がついている信哉だったが 


茜と言う 初恋の相手だけは アキレス腱のままなんだな と苦笑いした。



結婚してはみたものの 浮気してると 疑われ続け 責められ続けたことに 


くたびれ果てて離婚したのは 籍を入れてから1年ちょっと過ぎた頃だった。


信哉の心の中に ずっと茜が棲みついていることに 中途半端に気付いた


妻の鋭さが 信哉が持つ 結婚への責任感さえ 消耗させたと 落ち込んだ。




その 恋焦がれた相手を 12年前のように みすみす手放すなんて できるのだろうか。


理解ある男のふりをした代償は 大きかった。



本音を隠して 茜を尊重したフリをした自分を ずっと恨み続けているのだ。


今度こそ 今度こそ 自分の想いを告げなかったら 俺はバカヤロウだろうな。



自分を褒めたい。 例え 茜が苦しむ運命になったとしても 一緒に堕ちたい。


離婚されたら 子供と茜を 引き取ればいい。


親になったことはないが 茜の子供なら いつか可愛がれる気がする。



そもそも 茜が育てる子供は 俺の遺伝子を持った子供だと 思い込んでいた


若い頃の自分の気持ちを 新鮮なほど 思い出せるのが嬉しかった。



まだまだ 若いのだ。 俺だって 家庭を持って 守って 食わせられるのだ。





『悪い話なら 聞かないよ。 それより 来週の月曜なら 時間が取れるんだ。


 この前の ホテルの近くに フォルムっていう喫茶店があるから そこに来て。


 俺は 2時まで フリーだから 2時まで待ち続けてる。


 12年待ってたんだ。 月曜日に約束ができるだけで 拍手喝采だ。』



用意しておいた いくつかの会話の中から 一番積極的なやつを選んで


一方的に切った。  




苦しめばいいと思う。 自分も茜も。



その苦しみの渦に巻き込まれることが 信哉の最上級の 願いだったのだから。



腹は据わった。 そう思った。


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