初めて私に話しかけてきたのは27歳の女性だった。

「はじめまして、オセロゲームしませんか」
この問いに対して自分が返した言葉は思い出せないけれど、頷いたことだけは覚えている。
「名前はなんていうんですか、わたしはA子です」
「先生いっしょですね、わたしも○○先生なんです」
「わたしもつい最近入院したんです」
など、所作がなんとなく挙動不審だけれどまあ話せるひとかもだなと、そう思いながらオセロをうちつつ話していたとき、
急にそのA子さんはヨダレをだらだらと机にこぼし始めた。
わたしは驚いて最初は見なかったふりをするが、たらしては机にこぼれたヨダレを素手で拭くのを見ているとなんだか居心地が悪くなり、「部屋に戻ります」と一声かけて返事を待たずにわたしは自分の部屋に戻った。

その夜。皆が寝静まる頃、わたしの部屋のドアにノックの音が聞こえた。A子さんだった。
「○○さん遊びませんか」
わたしは気分が優れないのでその時は無視をした。というか他人の病室のドアをノックして良いのだろうか?とも思った。
それは次の日もその次の日も続いて、無視をしても何度もノックしてくる。
とうとう気味が悪くなり、休んでいる気にもなれず、看護師さんに相談することにした。

その数分後、看護師さんがA子さんに「○○さんは休んでいるの。A子さんがよくても、相手にはよくないこともあるの」と注意している声が聞こえた。
その後、A子さんが大声で泣きわめく声が聞こえてきた。

なんで療養するのにこんな気疲れしなきゃいけないのだろう、と頭を抱えつつもそれ以上にA子さんのことが気味悪く、一気にこの病棟の居心地が悪くなってしまった。