船主の集落だったところに降り立つと、風が潮の匂いを運んできた。あぁ、ここは海の街なんだなと肌で思う。

趣のある家々が立ち並ぶ中、過去と現在がまじりあうような場所で、そっと当時の生き方に思いを馳せる。

当時の海図に、岩礁と距離がのっているだけで、それ以外は描かれておらず、説明文には、後は、航海士の経験値で航海していたと。あの時代に………

ふっと、あの時間に過ごしていた人たちの声が聞こえてきそうだった。

少しだけタイムスリップした感覚で、その街を後にする。

潮の匂いに誘われて海へでると、空とも違う青さが出迎えてくれた。波音と、ジリジリと照りつける日差しを首や腕に浴びながら、どんなところへきても海を見ると心が躍ってしまう。過去に思いを馳せていたのに、それが一瞬にして目の前の青さにすいこまれていく。

言葉にできない気持ちも、まとまらない思いも包み込んで、浄化していく。

私もただぼんやり座って、ジンジャーレモンソーダを飲みながら、いま、この瞬間を味わう。

ジンジャーのピリッとしたあとに、ソーダが後を追って喉を通り過ぎる。その感覚。

眼下のビーチでは、地元の子だろう子供らが波と戯れて、無邪気に笑っている。雲の少ない青空で、汗が首元を伝うけれど、気持ちのよい潮風で、心地よい散歩日和だった。


📍尼御前崎