振り返ってみると。 | 猫と病気と頭ン中と。

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猫、病気の事、日々の出来事などなど。

私の祖母は、かなり強烈な性格の人物でした。
自分の子供たちがまだ幼い頃、連れ合いに先立たれてしまった祖母は、長男である父を溺愛し、自分も合意の上で見合いさせ父の嫁になった母を、まるで恋敵のように嫌いました。

母のやる事にいちいち過剰反応し、叱りつけ。それは日常茶飯事でした。
でも母だって人間です、たまには言い返したくもなります。
すると、祖母は、母のその言動を、まるで全て自分だけが被害者のように、話を何倍にも膨らませて近所に触れまわっていました。

私は母の味方でした。だから祖母に嫌われました。
妹はお婆ちゃんっ子でした。だから祖母に可愛がられました。

寡黙な父は、よっぽどの事(祖母が包丁を振り回したりとか)でもない限り、仲裁に入ったりしませんでした。

私は、それが普通だとは断じて思ってはいませんでしたが、そういう状態が当たり前な家庭で育ちました。
実家にいた頃は、母の笑顔を見た記憶が殆どありません。


祖母が亡くなった数年後、実家をリフォームする事になりました。台所・お風呂場・物置など。
アルバイトで暮らしていた私に、共に正社員として働いていた両親は、
「可能なら手伝いに来てくれ」と言ってきました(妹も家を出ていました)。

私は、その期間を使って免許を取らせてもらう事を条件に、快く了承しました。
でも、その間三か月、自室に戻るとやることがありません。
着替えと一緒に、ゲーム機とソフト数枚を荷物に入れて、帰省しました。

ある夜、ゲームをやっている時、母が私の部屋に入って来ました。
母と二人きりになると、必ずと言っていい程祖母と父の愚痴大会になるのですが(無理もありません、母にとって共感してくれるのは私だけだったのですから)、この日は、私がやっているゲームに興味を示し、

「何やってるの、これ?」
「ん?テレビゲームだよ、家庭用の。テレビにつなげて遊べるの。色んな種類があるけど、今私がやってるのはパズルゲームね」
「何がどうなってるのかさっぱり解らない」
「見てれば解るよ、ほら、こうしてああして、最終的にブロックを全部消せばクリア」
「ふーん」

しばらく見ていて、ルールを理解した母は、横から口を出してくるようになりました。
「その上のを落としたら、そこ消せるんじゃないの?」
「ほら、そっちじゃなくて反対側なら消せるよ」

あまりにうるさいので、
「んな事言うなら、自分でやってみ。コントローラーの使い方教えるから」

……失敗しました。手許見ながらじゃないと出来ない、あんたよくこんな事出来るね、なんてぶつぶつ言ってたのに、それからしょっちゅう私の部屋に来ては、
「みみこ~、ゲームやらして~」

………。母って、こんなひとだっけ?ま、楽しそうだから、いっか。


リフォームが終わり、免許証を手にした私は、母に新しいゲーム機(買いに行った)とパズルゲームのソフトを進呈し、自分のアパートへと帰ったのでした。

そして、数年後。
帰省した私が夜中にお手洗いに起きて一階に行くと、茶の間で真っ暗な中テレビ画面にくぎ付けになっている母が。

「……お母さん、今、夜中の2時だけど…何もこんな時間までやらなくても…」
「うん、大丈夫、も少ししたら寝るから。…あ、しまった、間違った、えいっ」

なんて言いながら、手許も見ず、鮮やかにコントローラーを操る母を見て、
ああ、ゲーマーを一人育ててしまったのね、私。
とがっくりしつつも、なんだか微笑ましい気持ちになったのでした。