ここ数日眠れていなかったようだから、
ようやく体調も安定して
安心して
ぐっすり眠っているのだな…
と思っていた。

ただただ
眠る父の顔を眺めていた。

ずっとそばにいると約束したから

目が覚めた時
誰もいなかったら
また不安になってしまうから

少し休んだら
また話がしたかったから

私は何をする訳でもなく
ずっと父の傍にいた。


どれだけの時間が過ぎたのだろう
外はすっかり暗くなっていた。

父はまだ眠っている。


看護師さんが巡回に来て
しゃがんだまま動かない。

不思議に思って
看護師さんの目先を見てみる。


あっ…

母の時を思い出す。

母の時と同じであれば
いよいよ覚悟をしなければならない。

蓄尿されていない…
そう、
尿が完全に止まってしまったのだ。

母もその状態になって
程なくして旅立ってしまった。


朝は元気だったのに…
沢山水分も摂れたのに…
美味しいもの食べようって約束したのに…


「会わせたい人がいたら
会わせてあげてください」

そう告げられ
数少ない親戚に連絡をした。

私が泊まれるようにと
個室に移動させてもらった。

現実を受け入れられず
妙に冷静な私。

旦那の仕事が終わる頃に
電話をかけた。

「もうダメかも知れない。
時間の問題だと思う。
喪服を持って来てくれない?
あっ、黒い靴も忘れないで。」

他にも
バッグの在処や諸々の準備を
淡々と話す私。


きっと…
夢なんだよね?

私が目覚めたら
父はきっと
「おはよう!いや~良く寝た!
Rieも寝れた?」と
聞いてくるに違いない。

私は眠っているの?
起きてるの?
それすら分からなくなってきた。



シャワーとトイレがある個室。
とても広いが
簡易ベッドの貸出は一台のみ。

仕事が終わって駆けつけてくれた旦那は
疲労でフタフタ…

簡易ベッドの寝心地は決して良いとは言えないが
旦那に勧めると
「Rieがしっかり寝ないとダメだろ。
俺は車で寝るから。
何かあれば電話して。」


とても眠れる感じては無かったが
この状況がいつまで続くか…
そう考えたら
お言葉に甘えることにした。

どうか、私が目覚めたら
父も目覚めていますように…