ある日、私が通う私立の女子中学校で盗難騒ぎがあった。
クラスメイトのミチルの財布が、体育の授業中に無くなったと。
ミチルの家はお金持ちで、お小遣いもたくさんもらっているというのはクラス全員知っている。
以前にも同じようにミチルの財布がなくなったことがあったのだけれど、その時は散々騒ぎ立てたミチルのカバンの奥から財布が見つかった。今回もそうじゃないかと誰かが言っていたけど、カバンの中に財布は無かった。
放課後、担任の先生は生徒全員に目を瞑らせ、誰がやったか正直に手を挙げろと言った。
私は、この先生が大嫌いで、信用できない大人の一人だと思っている。最初から生徒を疑っている。
どうせミチルは財布を家に置き忘れたに決まってるって、クラスメイト達はそう思っていただろう。
ミチルの親が金持ちで、学校に多額の寄付をしているから、きっとこの先生は犯人捜しを始めたんだ。
ミチルに媚を売っているんだ。
生徒全員目を閉じ、顔を伏せた。数分間の沈黙。
誰も手を挙げるはずがないのにな。
すると突然、誰かが、ミナコちゃんだと思います。と、私の名前を言った。
私が驚いて目を開けると、クラス全員が私を見ていた。
先生が近づいてくる。
違います!私じゃありません!と言ったけれど、先生はそんな言葉は無視。
カバンの中身を見せるように私に命じた。
私は渋々従った。
先生は私のカバンの中を乱暴に漁った。カバンの中にはミチルの財布などあるわけない。
クラス中のみんなが興味津々で見ていたけど、何も出てこなかったのでシラケた雰囲気が漂っていた。
私はお母さんとおばあちゃんと、三人で暮らしている。両親が離婚していて、お母さんしかいない。決して裕福な家庭ではないけれど、学費や生活費に困ってはいない。食事だって、贅沢しなければお腹いっぱい食べられる。
でも、片親だからって、クラスメイト達は貧乏人のイメージを私に持っているんだろうな。
なんだか悲しくなってきて思わず泣いてしまった。
先生やクラスメイトが、慌てて慰めに来た。
今度はなんだかムカついてきて、余計に涙が溢れてきた。
結局、ミチルの財布は見つからず、どこかに落としたんだろうということになった。
帰り際に先生が、あんなことしてごめんな。最初から違うとは思っていた。なんて見え透いた嘘を言いながら謝ってきた。
いいんです。慣れてますから。と私は答えた。
家に着くと、お母さんとおばあちゃんがいた。お母さん、今日は仕事休みだったんだね。
学校での出来事を話すと、お母さんとおばあちゃんはすごく怒って、次の日に学校に押し掛けて来た。
授業中だった私は職員室に呼ばれた。
行ってみると、お母さんとおばあちゃんが担任の先生と教頭先生にいっぱい文句を言っていた。
たしかにうちは裕福ではないけど、人の財布を盗むなんてありえないです!!!って言ってた。
私の大好きなお母さんとおばあちゃん、私のためにしてくれたんだね。すごく嬉しくて、また泣いてしまった。そんな私を見て、おばあちゃんも泣いていた。そのあとにお母さんも泣いた。女だけの家族三人でわんわんないた。
先生たちはずっと謝っていた。
その日、私は学校を早退して、お母さんとおばあちゃんと一緒に帰ることにした。
三人で手をつないで帰った。
おばあちゃんの手はシワシワ。この手で作った料理は格別においしいんだよね。
お母さんの手はガサガサ。この手で私たちを養ってくれてるんだね。
大好きなお母さんとおばあちゃん、ずっと元気でいて欲しい。私の成長をずっと見ていてほしい。
いつまでも笑顔の絶えない家族でいようね!
財布盗んだの私だけど・・・。
