何がきっかけで目が覚めたのかは分からない。

 

「終わりましたよ」

 

と、看護師さんの声が聞こえたような気もする。

 

私は、まだ手術室のベッドの上で横になっていた。

 

両足、両腕に巻かれていたものがはがれる音がしつつ、

看護師さんたちの声が聞こえてきた。

 

「〇時〇分。○個取りました。奥にあったのは・・・・」

 

意識が朦朧としていながらも、何を言われているのか必死に聞き取ろうとしている自分がいた。

 

手術は無事終わったのか。

取る予定だったものは全部取れたのか。

奥にあったのは…何?聞こえない…

 

そして、また眠りについた。

 

また目が覚めたのは、病室のベッドに移される時だった。

 

手術室のベッドからどのように運ばれたのかは記憶がない。でも、時間からして、手術室のベッドで目が覚めたときから、30分も経っていなかったと思う。

 

病室のベッドに移され、両足に血栓を防ぐための自動ポンプのようなものが巻かれた。

 

息が苦しい。

一生懸命息を吸おうとするも、苦しさが続く。

 

「く、くるしいです・・・」

 

と伝えると、すぐさま酸素濃度を測るもので指が挟まれた。

 

息苦しさは続いたが、どうやら酸素濃度は正常らしい。

 

そして、すぐに寒気が襲ってきた。

 

「さ、さむいです…」

 

と、歯をがたがたさせながら寒さを訴えると、毛布(後でそれが電気毛布だと知る)で体を覆われたが、寒さが治まらない。

 

麻酔をすると、手術後に寒さが襲ってくるという話を事前にブログで読んだことはあるが、尋常じゃない寒さだった。

 

息苦しさと、寒気。

 

前日に麻酔の説明を受ける際に、みぞおちの痛みや肩こりを訴える患者さんが多いという話を聞いていた。

 

私の場合、手術直後は、みぞおちが少し痛む以外、術部以外の体の痛みはなく、息苦しさと寒気だけが続いていた。今思うと、息苦しさは、みぞおちが痛かったために、深く息が吸えなかったことによるものだったように思う。

 

「い、いま、何時ですか?」

 

と、看護師さんに時間を聞いた。

 

17時45分だという。

 

手術から約5時間が経っていた。

 

一通りの処置が終わると、

 

「辛かったら、ナースコールしてくださいね」

 

と一言だけ残し、看護師さんは全員部屋の外へ出ていった。

 

その後、寒さは少し治まるも、息苦しさだけは続く。

 

苦しい…

息が吸えない…

このまま息が吸えなくなったらどうしよう…

 

何かあったときにすぐに押せるように、ナースコールのボタンを探した。

 

…が、見つからない。

 

手術後で、しかも、身体にこんなにいろんなものをまいている状態では、外に出ていくことすらできない。

 

急に怖くなってきた。

 

どうしよう、どうしよう…

 

そういえば、頭の方の壁にもボタンがついていたことを思いだした。

 

周りに気をつかいまくりの性格である私は、押してもいいのかどうかためらった。

 

でも、それがナースコールのボタンじゃなかったら…?

本当に必要な時に押せなかったらどうする…?

 

命に直結する問題だと思い、届くか届かないかといった距離にあるボタンに手を必死に伸ばし、押した。

 

「どうしましたか?」と、看護師さんの声が聞こえてくる。

 

あれ?ナースコールのボタンってすぐに看護師さんが来てくださるのじゃなかったっけ?

ナースコールのボタンではなかったのか?

 

一瞬押し間違えたのかと思いつつも、息苦しさを訴えた。

 

「息が吸えないです…」

 

少しすると、看護師さんがやってきて、酸素濃度を測ってくださった。

 

問題ないとのこと。

 

この息苦しさは一体…。

 

とりあえず、すぐに来てくださることが確認できたことに安堵しながら、ナースコールのボタンの位置を確認する。

 

「ナースコールのボタンはどこにありますか」

 

ベッドの下の方にぶら下がる形で落ちていた。

 

「ここですよ」と、手元に置いてくださるも、体にいろいろつながっている管で何がどこにあるのかがわからない。

 

「これですか?」と何度も確認し、手でボタンを確認してやっと安心することができた。

 

「こりゃ、初の入院患者にはわからないわ…」と内心思いつつ、また眠りについた。

手術予定時間の数分前。

担当の看護師さんが部屋へ入って来られた。

 

いよいよだ。

 

点滴スタンドをガラガラと引きながら、外へ出る。

 

バスタオルとおむつが入っているバッグは、看護師さんが持ってくださった。

 

1ヶ月が経った今でも、その時の緊張感が思い出される。

 

緊張感を感じ取ったのか、看護師さんがエレベーターの前で、

 

「手術室に入ったらまず名前と何の手術のために来たのか聞かれると思います。練習してみましょうか」

 

と、声をかけてくださる。

 

「すぐ終わるから。手術室に入って横になったら、まな板の上の鯉ですよ」

 

と、緊張感をほぐそうと笑いながら声をかけてくださる看護師さんにつられて笑ってみる。

 

手術室は同じ病棟の一個下の階。

 

名前と手術名を一回口に出したところですぐに到着した。

 

手術室につながる部屋(なのか、廊下なのか)のドアを開けて入ると、キャップをかぶって長いガウンを着ている看護師さんが二人、迎えてくださった。

 

練習したとおりに、名前と手術名を告げ、担当の看護師さんとはお別れ。

 

二人の看護師さんの後について奥へ奥へと入っていく。

 

想像していた手術室と近いような遠いような。

 

いろんなものが無秩序に部屋のわきに置かれていた(実際は、考えて置かれていたとは思うが)。

 

二回ほどさらにドアを開けて奥へ入っただろうか。

 

手術用のベッドが置かれている部屋へ到着した。

なんだかひんやりとした雰囲気。

 

今思い出してもどきどきする。

 

ベッドの下には二つぐらいの段差のある小さな移動階段が置かれていた。

 

そこからベッドに登り横になるよう指示される。

 

横になると否や、両側から、脚や手首にいろいろ巻かれ始める。

 

『まな板の鯉、まな板の鯉…』

 

担当の看護師さんから先ほど聞いた言葉が脳裏から離れない。

 

そして、すぐに酸素マスクのようなものが口元に付けられた。

 

「はい、麻酔入ります」

 

と、前日、麻酔の説明をしてくださった先生の声が頭の上の方からしてくる。

 

苦い、なんだか形容しにくい感じの空気が鼻の奥に刺さる。

 

そして、少しずつ意識が遠のいでいった。

手術は午後1時。

 

何か月か前に盲腸の手術で入院していた妹が、手術前は絶食だから、空腹感を我慢する時間の長さを考えると、午前中の手術の方がいい…と言ってたっけ。

 

手術の時間は自分で決めるものではないが、私は、午後の手術でよかったと思っている。

 

手術前にすることに、余裕をもって取り組めたから。

 

朝の7時ごろだったかな。

 

浣腸薬を持って看護師さんが来られた。

 

前日、浣腸について調べまくり(※前の記事を参照)、ベッドで入れてもらったほうがいいかなと思っていたので、理由は示さず、やんわりと告げる。

 

「あのぉ・・・、ベッドのほうで受けたほうがいいんですかね」

 

すると、

 

「いや、トイレで問題ないですよ」

 

とのこと。

 

まぁ、いいっか。看護師さんの腕を信じよう。

 

ずぼんを下におろし、浣腸のお薬を入れてもらう。

 

むにゅーっといやな感じが。

痛みも何もなく、すぐに終わった。

 

「3分は我慢してくださいね」と言われ、時間をはかるために持ち込んでいたスマホを眺めていた。

 

3分?余裕、余裕、よ・・・ゆう?

 

あれ?1分も経たないうちに、お腹がゴロゴロし始める。

 

だめだ。立っていられない。隣にあったお風呂用椅子に座って、封じ込める(?)作戦に入る。

 

あ…、い、痛い…。


外出先でお腹が痛くなってトイレを探しまくるあの痛みと変わらない気もするけど、違いがあるとすれば、力を少しでも抜けば、その場で「恥をかく」ことになりそうな感覚。

 

座ったまま、両足をばたばたさせらながら、気を紛らわせる作戦に入る。が、力を入れていられない境地にまで至ってしまった。

 

まだ3分も経っていない…ような気もするが、2分以上は経っているし、もう、我慢できな~い…と便器へ。

 

下着をおろすその数秒間さえも長く感じた。

 

3分ぴったしまで待てなかった気がするけど、これで全部出せたのだろうかと心配になりつつ、ナースコールボタンを押す(ことを終えたあとは、流さずに、呼ぶようにと指示されていた)。

 

便器を覗き込んだ看護師さんからOKサインをもらう。(このプロセスが恥ずかしい人もいるようだが、恥ずかしい気持ちはなく、毎度お疲れ様です!という気持ちだった)

 

いやぁ・・・、人生で一番長い3分だった。

 

ベッドからトイレまで我慢できない人がいるって本当だと確信し、すっきりししたお腹をなでながらトイレを出る。

 

トイレで入れてもらってよかった。看護師さんの判断に感謝した。

 

その後、シャワーを浴び、手術時に着ていくガウンに着替えた。血栓を防ぐソックスにも足を通す。

 

もちろん、朝食は運ばれてこず、9時までお水は飲んでもいいということだったので、お水をちびちび飲みながら、手術前の処置を待つ。

 

手術の3時間前である10時には点滴をすると言われていたので、まだ自由に動けるうちにと、手術室に持っていくバック(バスタオル・おむつが入っているもの)を確認し、手術から戻ってきたときに必要な便利グッズをテーブルに並べておいた。

 

小説、スマホスタンド、ハンディーファン、ティッシュ、嘔吐用のごみ袋(手術後に嘔吐があったという投稿をたくさん見ていたので…)。

 

そして、まだ開けていないペットボトルを出し、蓋を緩めておいた。手術後はお腹に力が入らないだろうし…。

 

よし、これで準備完了!

 

ペットボトルの蓋まで緩めるところ、完璧すぎると自画自賛していると、点滴の時間がやってきた。

 

右腕に針を指しながら、看護師さんが言う。

 

「あ、テーブルの上は片づけておいてくださいね。手術から戻ってきたらそこにいろいろ機材を置くので…」

 

えっ・・・

 

ということで、点滴を片手に、片づける羽目に…。


結局、ものはすべて引き出しの中に入れて、お水、ティッシュ、ゴミ袋だけをテレビの前においておいた。

 

ふぅ…。これで本当に準備完了。


ベッドで点滴がぽたぽたと落ちてくる様子を見ていた。


ひんやりとした液体が体の中に入っていく。

 

そして、スマホを開き、メッセージをくれた友人に返事をし始める。

 

Facebookには、すでにメッセージがたまり始めていて、LINE、Instagramの方にもちらほらメッセージが来ていた。

 

「お誕生日おめでとう!素敵な一日を」

 

そう。この日は、私の誕生日だったのだ。