このお話も、実は今までのものと同じ時期に書いたものですが、

ちょっと、ウルトラセブンのお話としては、サイドストーリー的なものです

 

きしくも、平成ウルトラセブン1999 最終章6部作に

続いた2002 5部作の一部裏返しのような話になってますが、

書き上げたのは2002年以前です

 

って、言っても、もう20年近く前の事ですから

そんなことかかんがえたことな~~い、しらな~~いって言う人がほとんどでしょうねw

 

レンタルで見るのも、マニア以外はちょっと困難ですねww

 

 

平成ウルトラセブン番外編

カザモリくんの家庭の事情

 1.カザモリ隊員の母(前編)

 

(キャーハハーッハッ、キャッキャーキャーハハー・・・・・)

(・・どこかで、子どもが笑っている・・いやもっと幼い・・・赤ん坊だ)

ダンは、防衛軍極東基地の自室のベットで夢ともうつつともわからず微睡んでいた。

(ウル・・・セブ・・ン・・・セブン・・・)

(キャキャッハハハ・・)

(やわらかい頬が自分の頬にふれた・・・気がした・・いや感触が残って・・・これは、・・・私の記憶ではない・・・カザ・モリ・・彼の記憶だ・・・)

(ウルトラ・・セブン・・は・・母を・・た・すけ・・て・くれ・・・)

「カザモリ!」

カザモリ=ダンはベットから飛び起きる。

そして、ベットの向こうの鏡を見た。青ざめたカザモリの顔がこちらを見ている。

「・・・今のは何だ」とダンはベットから下りて、制服のベルトに付けたケースを開けて並んでいるカプセルから一つだけ離したものを手に取る。

(彼はここで眠っているはずだ。だのになぜ・・・母を助けてくれと言っていた)

 

ふと、カザモリ隊員の母親を思い浮かべる。部屋には、彼の母親の写真はない。

ダンとカザモリが入れ替わった時、ダンと違って家族を持つカザモリの記憶を、全てではないがダンがテレパシーで写真のように瞬時に彼から写し取っていた。

これはあまり進められる方法ではない。あまり頻繁にカザモリ隊員の記憶を引き出すとカザモリという人物がセブン=ダンの中で形になりすぎてしまうのだ。

それで、普段、ウルトラ警備隊においてカザモリ隊員の個人的なことには深く知らなくとも他の隊員に疑われる事なく行動できたし、なによりもダンがカザモリ本人の心の奥底を覗くことをはばかったので、彼の記憶をいつもはなるべく頭の奥に封じ込めていた。

 

 

その日の午後、カザモリ=ダンは洒落た高層マンションの前に立っていた。

ここにはカザモリ隊員の母親のエリコが一人で住んでいた。

しばらく、中に入るかどうか迷っていたが意を決して入りかけた時。

「マサキ?・・・マサキじゃないの」と呼ぶ声がした。

(マサキ?・・マサキはカザモリの名だ)とダンが振り向くとエリコだった。

「どうしたの、急に。いつも電話もかけて来ないのに・・・珍しいわね」

 

彼の記憶どおりカザモリ隊員によく似ていて美人だった。

そして彼女は、母親というより姉といってもいいくらい若かった。

カザモリ隊員が、自室に彼女の写真を飾らない理由がここにあった。

サトミ隊員やシマ隊員に見つかりでもしたら何を言われるかわからないからである。

また、カザモリはある意味で母親を避けていた。

そのために今までダンが母親に会わないですんでいたのだ。

 

実の親は、たとえ息子の記憶を持っていたとしても姿形は息子でも別人と見抜くことがある。特に地球人の女性は・・・・

「か、母さん」とぎこちなくダンは声をかける。

まさかあなたの息子が、夢枕に立ってあなたを助けてくれと言われたと言えるはずもなく、それ以上言葉が出て来なかった。

「まあ、ここで立ち話の何だから・・あっウルトラ警備隊は?」

「今日は非番だから・・・」とこれだけやっと言う。

「そう、じゃあ今日はゆっくりしていけるわね」

そう言って、エリコはダンの腕に手をまわしマンションの中に引っ張っていった。

エレベーターにのって15階へ上がる。

1507号室、表札の名前はアイダエリコになっていた。

 

「これ、母さんの得意料理だね」

それは、カザモリ隊員の幼い頃食べていた料理だった。

「数少ないレパートリーのね。仕事が忙しくて外食ばかりしてるから、他のものがいまだに覚えられないの」

(カザモリ隊員の父親と離婚しなければ、今も旧家の妻として何一つ不自由なく暮らせていただろう。)とダンは思う。

「お兄様方はお元気?」

「さあ、兄さんたちとも去年の父さんの葬式以来会ってないから・・・」

兄たちとは、カザモリの腹違いの兄たちであった。

 

──カザモリの記憶(後でダンが彼の履歴その他の資料で見た物も補われているが)

母は、カザモリトウヤの後妻として、高校卒業と同時に嫁入りした。

父はその時32歳なったばかりだったが、病死した先妻との間に生まれた子ども達、当時9歳と8歳なる息子がいた。そして翌年、僕が生まれた。

カザモリ家はその地方で旧家と呼ばれる家だった。

 

旧家といっても、格式ばかりでやたらに広い家があっただけで特別に裕福ではなかったが、曾祖父の代からの土木建設の事業は順調だった。

仕事のために父は家にいることはあまりなかったが、それでも、父は家にいる時は母や僕たちをこの上ない愛情をもって慈しんでくれた。

しかし、年若い母にすれば父のいない日常と旧家の嫁という立場に、だんだんと耐え切れなくなっていったようだ。

のちに、僕を育ててくれた祖母がまだ健在だったが、いわゆる世間でいう嫁姑問題でもめた訳でもない。兄たちも素直で母にはよくなついていた。

この家がもつ独特の空気に押し潰されていったようだ。

それは後の僕にもいえた。それゆえすこし母を許す気にもなった。

 

話が急に先に進んでしまった、話を戻そう。

僕が一歳になった時に、父が気晴らし(といったら少々語弊があるが)にと、母に大学へ行くことを進めた。

母は翌年合格し、大学の授業に夢中になったが、僕たちの世話や家の切り盛りは手をぬかなった。それも母を追い詰めさせたようだ。

大学の新しい知識は、様々な母の可能性を彼女に見つけさせてくれたようだった。

大学4年の春、父に母は商社への就職希望を申し出た。

父は、穏やかかつ頑固に反対した。

その後、どんな話し合いが二人にあったのかよくは知らないが、僕の小学校の入学式の翌日、母はカザモリの家を出た。

 

「ごめんね・・」と、無邪気に手を振る僕を抱き締めてから行ったのを覚えている。

父は、僕に母は仕事を始めたとだけ説明した。

そして、母と別れても月に何度か僕を母に会わせてくれていたし、再婚もしなかった。そのため、当時の僕には父と母が離婚したことはよく理解できなかった。

普段、僕を育ててくれた祖母も、兄たちも、母の事に対して何も言わなかった。

おっとりした性格の祖母に育てられて、僕は幸せに育った。

 

そんな僕を最初に傷つけたのは、

「おまえの母ちゃん、おまえや父ちゃん捨てて出ていったって、俺の母ちゃんが言ってたぞ」という級友の心ない一言からだった。

「僕は捨てられたの。母さんは僕たちを捨てて出て行ってたの。もうとっくに僕の母さんじゃなくなってたの」と僕は父を問い詰めた。

「違うよ。母さんはいつまでもおまえの母さんだよ。でも、この家にいるとだめになるんだよ。私は母さんを自由にしてあげたんだよ」

子どもの僕には、父の言ったことの意味をよく理解できなかったが、母に反発し始めたのはそれからだった。

 

中学生の頃には、母とはほとんど会わなくなっていた。

同じ頃、世の中は、また他の星からの侵略が目立ち始めていた。

母への怒りうんぬん所ではなくなった。街が壊され、巻き添えで人が死んだりした。

そして、父の事業が今まで以上に忙しくなった。

僕が高校に入学するころには、病気の祖母を日本屈指の医者と最高の治療を施せることが難無くできるほど家は裕福になっていた。

僕はどうして父の仕事が忙しくなったのかよくわかっていたし、同時に心の奥に潜む何かにもずっと目をそらしていた。

べつに父が街を壊したわけでもない、他を出し抜いて仕事を得たわけでもないのだとずっと自分に言い聞かせていた。

 

高校の友達にそれをズバリ指摘された。

「お坊っちゃま」の一言で切れた。今まで一番ひどい嫌な喧嘩だった。

そんな時、避難する人を誘導するウルトラ警備隊をテレビニュースで見た。

僕は、防衛大学への進学を父に希望し、のちには防衛軍に入隊したいと言った。

 

兄たちと同様に自分の事業を手助けしてもらえると思っていた父は、

「末っ子のたよりない奴が防衛軍なんかに入れるものか」と怒った。

母に理解を示して送り出して行った父なのに、僕はだめなのかと父にも反発した。

説得しに来た兄たちとも物別れした。兄たちとの仲は今もぎくしゃくしている。

僕は、父に防衛大学へ行くのなら何も援助をしないと言われた。

そこで、僕は猛烈に勉強し大学の奨学金を得て、家も出てアルバイトをしながら大学生活を始めた。しかし、なれない生活とバイトのむりがだんだん出てきた。

そんなおり母が援助を申し出てくれた。─────

 

 

(ここからの彼の記憶が、いろいろ複雑な心境が入り交ざって私には理解しがたいものがあるので、

要点だけ理解すると、母親はカザモリに対する後ろめたさと、息子の窮状このまま放置するわけにはいかないと思って援助した。

彼は少し反発しながらも内心助かったと思って援助を受けたが、それでも会うのを避けたようだ。私に言わせればかなり勝手な奴としか思えない。)

ダンは思ったが、幼いころから親に甘えるということ知らないセブン=ダンだった。

 

食事が終わっても、リビングのソファーに掛けてダンはカザモリ隊員の過去を振り返っていた。

(危ないな・・彼が表に出過ぎる)と思うが彼の記憶を今は押し込めるわけにはいかない。

 

片付けものの済んだエリコが彼に何か話かけていた。

「えっ、何だって」

「マサキ、あなたが何だか落ち着いてきたって言ったのよ。マンションの前で見かけたとき、別の人かと思ったって」

「そ、そう」エリコの言葉にあせるダン。

(やはり母親というものは、なんとなくわかるのか。気をつけなければ・・)

 

「前はなんだか軽いっていうのか、やっぱり末っ子だっていうのか、おっとりし過ぎてたよりないというのか、どうしてトウヤさんのように、あなたはなれないのかしらと思っていたけど・・」

「ろくに育てもしなかったくせに、どうしてそんなこというんだ。父さんのようにだって。父さんはただの人だった」と、なぜかカッとして思わずカザモリが反論する。

「・・まだ、私のこと怒っているのね・・・・」と彼女はちょっと目をそらす。

今、母親に反抗したのはダンを侵食し始めているカザモリの記憶がなせる技だった。

「・・・でも、トウヤさんの悪口は止して」と、エリコは息子を睨む。

 

(カザモリ隊員、言い過ぎだよ・・)

「・・・ごめん。」とダンが気を使って謝る。

エリコは、一瞬驚いた様子だったが、すぐに笑みを浮かべて言った。

「ほんとうになんか変わったわね。こんな素直に誤るなんて。」

別にダンを疑っているわけでもなかった。エリコは今の息子の言葉が嬉しかったみたいだ。

しかし、ダンの方が何か少し気まずくなり、黙って立ち上がりリビングからベランダに出て深呼吸する。

日はとうに沈み、空には星が瞬き、そばの川からのそよ風が心地よい静かな夜だ。

ダンは、こうやっていると、彼女のどこが危険なのだと思う。

(室内もマンション周辺も別に怪しいところはない。感じもしない。あのカザモリ隊員は幻だったのだろうか)

 

先程のこともあるし、これ以上ここにいたら自分の正体がばれないとは限らないと思い、ダンはもう防衛基地へ戻ると言い出した。

エリコは『まだいいでしょう』という顔をしたが、

すぐに笑顔で「風邪とかに気をつけてね。忙しくてもしっかり食事を取るのよ」とカザモリを気遣う様子で言った。

そんな母親の様子を見て、ダンは少し彼を羨ましく思った。

 

エリコは、息子を見送りにでたマンションの前でカザモリ=ダンと別れるとき、まだ何か言いたげだった。

「どうしたの?母さん」ダンが気になって聞いた。

「なんでもないわ。・・・もう行きなさい。元気でね」とにっこり笑う。

ダンは、返事の前に目をそらして別の方を見る。

「それじゃ、・・・おやすみ」とそっけなく言ってきびすを返す。

ダンは通りの角を曲がる寸前で振り返る。エリコはまだ通りに立って見送っていた。

彼は軽く手を上げて答えてから角を曲がった。

 

息子が角を曲がって見えなくなると同時に、突然エリコは言いようのない恐怖感に襲われた。「まただわ」とエリコは自分の体を両腕で抱き締める。

(何、この感じは、あの人と・・・やはりマサキに言うべきだったかしら)

──ろくに育てもしなかったくせに───

さっきの息子の言葉がよぎるが、今日彼が来てくれたことだけでも嬉しかった。

(そうね。実際に何か起こったわけじゃないし、いくら息子がウルトラ警備隊と言っても・・)と足早にマンションの中に入る。

 

マンションのすぐ横の入り口が見える公園の暗がりで、そのエリコの様子をうかがう者がいた。顔は見えない。性別もわからない。しばらくマンションの上の方を見上げていたが、闇の中に溶けるように消えた。

ダンは、エリコから見えなくなるとすぐに引き返して、それをマンションから少し離れた所から気配を消して見ていた。

 

(やはり、誰かいたのか。・・それもあれは人ではない。私に気づかれないようにしていたらしいが、どうやら私に驚いてボロがでたようだ)と、ダンは、先程の者と同じようにエリコの部屋がある15階の方を見上げる。


前編 了