イフチアンドル  最終話

 

 

 

海上や地上は暴風雨になっており、村では村人たちが巨大なウニの化け物の出現に動転していた。

 

ソガは、駐在の相馬に皆を避難させるように伝える。

その怪物に見覚えのあった満が、「あ、あれは・・・あの時の・・・」と、思わず口にしてしまう。

そばにいた村人が、その言葉を聞き付ける。

「満、お前・・・何か知ってるんだな」と詰めよる。他の者も一斉に満を見る。

「じ、じつは、イサオに研究所の下の洞窟に案内されたとき、あれを見たんだ・・・」

その剣幕に押され、満は思わず言ってしまう。

「・・そうか、きっと、イサオの奴、その洞窟であんな化け物を育てていたんだ・・・」

村人の一人が確信したように言った。

その時、誰かが満潮でもないのに水が上がってきているぞと叫ぶ。

「きっと、あれを使ってこの村を海に沈めるかもしれん・・・」

「もう我慢できねぇ!!俺たちが、ちょっとあいつらを恐れているからって図に乗りやがって!!」

口々に叫び始めた。そして、だれからもなくイサオの家に押しかけようということになった。

「やめなさい!・・・そんなことはやめるんだ!!」

村人たちのただならぬ雰囲気を感じたソガがあわてて止めに入る。相馬も追随する。だが、一気にわっとなった村人は、二人を殴りつけ昏倒させてイサオの家を目指して駆け出した。

 

 

同じころ海上では、巨大化し水面に上がってきたセブンであったが、

既に額のビームランプは点滅をしていた。

(エネルギーが足りない・・・)と思うが、空は一面、雨と厚い雲で覆われていた。

セブンは、飛び立ち一先ず雲の向こうに出て太陽に向かいエネルギーの補充をしようとした。

しかし、それより先にジムスからまた触手が数本シュルシュルと飛び出して来た。セブンの動きを止めるように彼の手足に絡み付く。

 

次の瞬間にセブンは水面の方に叩きつけられる。手足を振って抗うが触手はセブンにしっかり巻き付いて外れなかった。

セブンはアイスラッガーを手に取ると触手を切るが、すぐに別の所から触手が伸びて来てさらにさらに巻き付いて来た。

ホーク1号が急発進し、ジムスに攻撃を加えようと試みる。旋回するとジムスを目がけてミサイル攻撃をする。

「やったか!!」

コックピットでは、ようやく正気を取り戻したフルハシが名誉挽回とばかりに操縦桿を握っていた。

フルハシは、さらにミサイルで攻撃する。しかし、噴煙が収まったジムスは何事もなかったようにその表面には傷一つ付いていなかった。

 

 

村人たちは、イサオの家の前までやってくるとさらに怪獣に近づくことになるのに漸く気が付くが、水位がさらに上がったのを見て勇気を奮い起こすように誰かが叫んだ。

「で、出て来い!!イサオ!!この村を水に沈めようってしてんのは分かってんだ」

「あの二人は、おまえらに怪物にさせられたんだ!あの怪獣もお前たちのせいだろ!」

やや間があって

「言い掛かりはよしておくれ!!」と中から声がした。

戸が開き、老婆は戸口に出てすくっと立ち、皆を一睨みする。

「あの怪物は、きっと海の恩恵を忘れたお前たちを諌めるために現れたんだ!!」

「何をぬかす!最良の漁場を独り占めしてるのはお前の方じゃないか!」

「俺たちは、それなりにお前たちを敬ってきたじゃないか。それなのに、この村を水に沈める気なんだな!!」

村人は殺気立ったように言葉を返す。今にも老婆に飛びかかりそうだ。

 

 

「ばあちゃん!!」

イサオの声がした。

何か不安を感じて彼は洞窟から急ぎ家の方に帰って来ていたのだった。

村人たちの視線が一斉にイサオに向けられる。

その異様さに老婆は

「イサオ!!早くお逃げ!逃げるんだよ・・・」と叫ぶ。

だがイサオは、素早く祖母の手を取ると駆け出す。

しかし、二人はすぐに海岸まで追い詰められてしまう。海上は波が高く荒れている。

 

今のこの海に飛び込んで、ばあちゃんは大丈夫なのだろうか、

体力的にも弱っている祖母を気遣いイサオはその場に立ち止まる。

 

「海に逃がすとやっかいだぞ!早く囲め!」と、イサオが躊躇している間に誰かが叫ぶ。

その時、一人の老人が飛び出して来た。

「やめれ!!もう・・・やめれ・・・」彼は村人をなだめるように言っている。

その人物の意外さに満は思わず叫ぶ。

 

「さ、沢田のじいさん!何を言うんだ・・・おめぇ、一番こいつらを毛嫌いしてたじゃないか」

「今更、何を・・・こいつらを殺さなければ、村が海に沈むんだぞ!!」

沢田老人は、一瞬哀れみと驚きの交ざった表情をする。

「・・・おめぇらこそ忘れたんか!わしらは・・・わしらが、やって来た・・・」

しかし、沢田老人の言葉を切るように村人の誰かが叫ぶ。

「どけ!ぐだぐだ言っていると、あんたもただではおかねぇぞ!」

だが、沢田老人も負けてはいなかった。

「あいつらをやっても、きっと何もかわらん・・・あの怪物は警備隊に任せりゃええんだ」

それを聞いて村人たちは思い出したように海上を見る。しかしセブンもウルトラ警備隊も相変わらずその怪獣を責めあぐねていた。

 

「任せろって・・・見ろ!ウルトラセブンも警備隊も何もやれてないじゃないか」

満はセブンたちが戦っている方を指さすが、ふとあることに気が付く。

「・・・あっ・・・そうだ・・・もしかしたら・・・あれを・・・」

何かに思い当たった満は、さっきの警備隊の隊員にだれか知らせろと回りをキョロキョロ見回し始め、ソガたちを残してきた方を見る。

だが、満が一歩踏み出した瞬間、ジムスから別の触手が突然満を目がけて飛び出し、満のほか彼の周辺の者を一気になぎ倒して海にたたき込んだ。

 

すぐ近くの岬の崖の上の先には、悟志と暁美が立っていて村人たちを見下ろしてした。

 

満たちの無残な死に方を見て、その場の空気がさらに恐怖を増す。

もう誰の制止も受け付けず村人たちは一気にイサオたちに詰め寄る。

「うわーーっ!!」

海の方にも逃さないぞとばかりにイサオたちを取り囲んだ。

イサオは行く手を阻まれ、とっさに彼は爪を立てて大袈裟に村人たちに飛びかかろうとする。

「ひ、ひえっ」と相手は一瞬怯む。

その隙をついてイサオは祖母の手を引くと水の中に飛び込んだ。

だが、波にもまれて二人はすぐに手を離され、老婆の方は水の中に沈んだ。

 

イサオが慌てて祖母を追うように潜るが、潮の流れはいつにも増して早かった。

(ばあちゃん!!)

イサオは必死になって祖母をつかもうとするが、彼と祖母の距離はみるみる広がった。

その時、逆巻く渦の陰に何かが横切ったのをイサオは見た気がした。

同じものを見たのか老婆は、少し驚いてそれから何もかもわかったような表情をする。

イサオには祖母が一瞬ほほ笑んだようにみえた。だが次の一瞬には彼女は激しい海流に流され海の彼方に消えていってしまった。

イサオはすぐにその後を追いかけようとしたが、潮の流れが急に逆転する。

放り出されるように海上に上がったイサオはいまいましげに悟志たちを見てジムスを見る。

 

 

ウルトラセブンは、ジムスの触手からなかなか逃れないでいた。

アイスラッガーで触手をきることはできたが、それにも増してジムスの方が次々と再生させる。

セブンのビームランプの点滅が一層早まる。

ホーク1号が何度も攻撃を仕掛けるが、ジムスの堅い装甲にはびくともしないようだった。その様子を見て、崖の上の例の二人は満足そうに顔を合わせる。

 

イサオは、海上でしばらくどうしたらよいか分からないでいた。

祖母の行方や水中にいた者のこと、崖の上の悟志たちのこと、ジムスのこと・・・今までのことなどが彼の頭の中でバラバラに主張していた。

だが、その混乱の中で一つ何かが少年の心に引っ掛かるものがあった。

そして、今、ようやくその引っ掛かるものにたどり着く。

それは満が言おうとしていたことだった。

 

「セブン、その刺の下、触手とは少し違ったちいさな蛸の足みたいなものがあるんだ。もっと小さかった時はそこに触れると何か苦しげだったよ」

そう話す声は決して大きくはなかった。テレパシーとも特別な音声とも分からない。ただイサオは自分の本能が赴くままの方法でセブンに話しかける。

セブンはすぐさまイサオの呼びかけに反応し、

何とか右手を自由にさせるとアイスラッガーを指示された部分を狙って投げ付けた。

 

「ピキュイィィーーー-ーーーーン!!!」

甲高い叫び声ようなものが一声上がる。

アイスラッガーが命中した部分をかばうように触手が一斉に覆う。セブンに絡み付いていた触手も離れる。

 

岬の悟志と暁美は目を吊り上げて口々に叫ぶ。

「やめろ!!セブン!やめるのだ!!」

「イサオ!!よくも裏切ったな・・・」

暁美たちの髪が逆毛だち、体が変化しはじめる。

「あなたたちは嘘つきだ!!自分で変身できるじゃないか!!」

(彼らは、僕の仲間ではなかった・・・)

イサオに失望と安堵感の相反する感情が生まれた。

 

触手から逃れたセブンは、さらにジムスに攻撃を加える。

ジムスは、また叫び声を上げて今までもうもうと吹き上がらせていた水蒸気を激減させる。

しかし、依然ビームランプは点滅を続けている。セブンは、残りのエネルギーを振り絞るようにワイドショットを急所めがけて放つ。

 

一瞬の静寂の後、ジムスの体にひびが入ったかと思うと瞬く間にそれは全体に広がり突起が次々と脱落し始め崩れが大きくなり、どどどっどと崩れてしまった。

同時に見慣れぬ形の宇宙船が飛び上がる。すぐさまホーク1号が後をおい追撃する。

ミサイルを受け宇宙船はあっけなく海中に落下後、爆発した。

 

 

村でもその様子を皆が見ていた。

ちょうどそのソガも相馬をつれてポインターでやって来たところだった。

その場にイサオたちがいないのに気が付くと

「おそかったのか・・・あんたたちは流言飛語に惑わされてとんでもないことをしたんだよ」

分かっているのかとソガは憤懣やる方ないようすで村人たちにいった。

「これは宇宙人の侵略だったんだよ・・・彼らを変えたのは宇宙人の仕業なんだ。見たろうあの宇宙船を!!」

「・・ち、ちがう・・あの二人が勝手に海に飛び込んだんだ」

「そ、そうだ・・お、俺たちはあいつらに話を聞こうとしただけなんだ・・・」

ソガが、捜索の船ぐらい出したらどうだというが、

「殺したなんてとんでもねぇ!ば、ばばぁたちは、海女なんだぞ!そのうち帰ってくる」

「今、どこかへ逃げ込んでいるだけだ、重しつけて沈めたってやつらが溺れることはねぇ」と口々に言い訳を始める。

 

それから、長い間漁に出れなかった俺たちには、こんなことをしている隙はねぇんだと誰かが言い始めると、それに乗るように村人は口々にそうだ、そうだというとその場から離れ始めた。

そそくさと霧散するように消えていく村人たちをソガは苦々しく見つめていた。

 

 

研究所近くの海岸、ダンとイサオが立っている。海はまだ荒れている。しかし、雲の間から太陽がのぞき始める。

イサオは眩しそうに手をかざす。

「・・・僕は、やっぱり陸の世界では生きられない」

「そうじゃない。水と空気は、相いれないものではないんだ。どちらも互いに自然界では目にははっきり見えないが共に存在しているんだよ。水の中にも空気が・・・大気の中にも水が・・あるように・・・」

 

「よくわからないけど・・・兄ちゃんの言うとおりかもしれない・・・でも・・・」

イサオは海の方へ向直して

「僕は見たんだ・・・あの日、大勢の者が消えたけど、まだ微かに、この海の遠い所にいるような感じがするんだ・・」

(それはあのノンマルトなのだろうか・・・・)とダンは思う。

「ばあちゃんはきっとそこへ還っていったんだ・・・そこを探しに行こうと思う・・・」

そうこの海には彼らがまだいる。だが、口には出さなかったが、恐ろしいくらいの悲しみも・・・イサオは感じていた。漠然とした不安を感じるがそれを振り払うように、

「『これは、お前にしかできないんだよ』ってばあちゃんが言っていた・・・だから、僕・・」

 

その時、ダンのビデオシーバーがなる。

「ダンどこにいるんだ・・・無事なのか」

通信してきたのはキリヤマだった。

「はっ、少年たちを探していたのですが・・」とダンは言って一旦言葉をきり、

「・・・見つからなくて・・・」と答える。

それを聞いて、イサオは一度ぺこんと頭を下げると海に向かって歩きだした。

 

 

ウルトラ警備隊のみんなが岬の研究所跡にそろっている。

「あのイサオとかいう少年と祖母はとうとう見つからなかったようだな」

キリヤマは研究所跡と海上を交互に見ながらソガにたずねる。

「はっ、村人の協力が得られなかったので独自捜索しましたが・・・自分のミスです・・・村人を止めることも、彼らを助ける事もできませんでした・・・」

意気消沈したようにソガは返事をする。

仕方がなかったんですよとダンはソガを慰めるように言う。そういうダンの表情も冴えない。

(少なくとも少年は無事ですよと告げたかったが・・・・)

 

アマギが、メモを取り出しながら話し出した。

「ところで・・・あの洞窟での碑文がなんとか訳せたんだ。さっき報告があった」

しかし、アマギは複雑そうな表情を見せる。

「どんな意味だったんだ」

フルハシが聞いてくる。アマギはややと惑いながら話始める。

「・・同胞よ。はらからよ。海に還れ、同胞よ。なぜ再び陸を目指す?・・・海は我々がようやく得た安住の地ではないか・・・還れ・・同胞よ・・」

キリヤマ含めてウルトラ警備隊の面々は思うところがあったが誰も口に出そうとはしなかった。

(この村には代々優れた海女がいるという・・・)

ダンは、村を見渡し心の中で呟く。

やがて、キリヤマは振り切るように言った。

「作戦終了。全員基地へ帰投する」

 

 

沢田老人は、海岸縁にたたずみ十年前の事を思い出していた。

(確かに、イサオは、あの婆さんの孫だ。あいつの家出した娘の海奈がイサオをおいて行くのを見た・・・俺のこの身では海には帰れまい・・・意に添わなかった俺らは彼らを捨てたのか・・・それとも捨てられたのか・・・ただ俺は海への切符を持つあいつがうらやましかった・・・)

 

ホーク1号にキリヤマとフルハシ、アンヌ、ダンが搭乗している。

アンヌはまた少年が消えた海を見てダンの方に目を移す。ダンも海をじっと見下ろしている。

(ここは陸に再び上がったノンマルトの村だったかも・・・もしかしたら、彼の祖母もそれを感じ取っていたのかもしれない・・・)

 

 

一度も振り返ることもなく波間に消えた少年を思い出すダン。

(この広い海で彼は彼の仲間に巡り会えるのだろうか・・・・それがまたノンマルトだったのなら・・・・)

(彼らは、君を通じて人類との融和を計ってくるのだろうか、それともまた対立か・・・

僕はその時どうするのだろう・・・だが、今はそんなことを考えるべきではない・・・今は、君が無事仲間のところへたどり着けることを祈ろう・・・)

 

ダンはいつまでも揺れる波をホークの機上から見続けていた。

 

 

イフチアンドル 最終話 了

 

 

最後まで、読んで頂きありがとうございました

このお話を初めて掲載した折には

サイトには、「帰って来たウルトラマン」シリーズ世代が多くいらっしゃったので

「怪獣使いと少年」を彷彿とさせる感想を頂きました

 

セブン世代の私には、そのエピソードは、なんとなく覚えているかな(^^;)って感じでしたが、改めてネットでストーリーを追えば

確かにその雰囲気が出てると思いましたが、

 

このお話の元ネタは、

アレキサンドル・ベリャーエフ

「両棲人間」

ロシアの児童文学で、図書館で見つけました

1961年に映画化されています

イフチアンドルは主人公の名前です

 

で、もう一つの元ネタは

NHKで放送されていた

「アトランティスから来た男」ですね

これも海洋物のSFで放送されたのは80年代

記憶喪失のため、マーク・ハリスと名づけられた手に水かきを持ち

イルカ並みの速さで泳ぐ超人でした

 

このノベライズも児童書の扱いですが、発行されています