氷室冴子『クララ白書』のドーナツ | 東京散歩 * Allons Nous Promener aux Milieux de Tokyo

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ハイセンスなヘアアクセサリーのセレクトショップMilieux de la Cultureのスタッフブログです。
新着商品情報のほか、東京都内を中心に管理人の独断と偏見(笑)で選んだMilieuxなスポットをご紹介します。

「蒔子はせっせとドーナツを揚げ、私は揚がってくるドーナツに片っ端からシナモンシュガーをおしみなくふりかけ、菊花は蒔子がタネづくりに使った鍋やめん棒、ボウル、まな板等をどんどん洗い、片付けていった。」

今このブログを読んでくださっている方の中で、この文章に反応される方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。

約2週間前、管理人は自宅でイベントに向けた準備をしていたのですが、そのときつけっぱなしにしていたテレビから聞こえてきたのがこの一節でした。


はたと手が止まりました。
「この文章、どこかで聞いたことがある」と思ったからです。
それで顔を上げ、テレビの画面を確認して思わず息を飲みました。


シナモンシュガーがたっぷりかかったドーナツが大写しにされた画面にはこう書かれていました。

氷室冴子『クララ白書』

クララ白書


私の青春、氷室冴子!
そうです。先の文章は、小学校の高学年から中学生にかけて、何度も何度も読み返した『クララ白書』の一節だったのです。
あれからン十年。
もう懐かしくて懐かしくて…。

ン十年ぶりの再会をとりもってくれたのは、BSフジで毎週土曜日の夕方に放送されている『原宿ブックカフェ』です。

この番組内の「文壇レシピ」というコーナーは、「小説やエッセイの中に登場する料理を実際に再現する、名作を食べて楽しむコーナー」(番組サイトより)です。
該当する文章が朗読される中、そこで描かれているお料理が再現されていきます。
そして「文壇レシピ」で紹介されたメニューは、東京・原宿と兵庫・三宮の「カフェネスカフェ」で、2週間の期間限定で販売されるのです。

懐かしさのあまり、このドーナツがどうしても食べたくて、原宿の「カフェネスカフェ」に向かいました。

「カフェネスカフェ」は、その名の通りネスレ日本が経営しているカフェです。原宿店は、竹下通りの入口からさらに代々木方面に2ブロックほど進んだ先にあります。

カフェネスカフェ原宿

店内は天井が高く、とても広々としていて、開放感があります。
free wifiも飛んでいて、パソコンで仕事をしている人もたくさんいました(場所柄か、mac率が異様に高かったです)。
ソファ席もかなりあり、ゆっくり本を読んでいる人、商談中らしき人などなど、いろんな人がここで時間を過ごしていました。

カフェネスカフェ原宿

原宿は平日のお昼間であってもびっくりするぐらい人が多く、カフェでゆっくりお茶をするというのもなかなか難しかったりするのですが、こちらは店内がかなり広いことと、原宿の中心地から少しずれているという立地を考えれば、格好の穴場スポットとして使えそうです。

カフェネスカフェ原宿

そして管理人は迷わずドーナツとコーヒーをオーダー。
クララ舎のしーのとマッキーと菊花も食べたであろうシナモンシュガードーナツです。



ネスカフェの商品を知ってもらうためのアンテナショップとしての要素が強いカフェですので、コーヒーのお味はまあ…それなりです。
ドーナツは油っぽさを感じさせない、軽くてあっさりとした食感でした。シナモンと一緒に表面にまぶされているのはおそらくシュガーパウダー。舌の上ですっと溶けていく甘さを堪能しました。

冒頭の記述は、『クララ白書』(集英社文庫)46ページにあります。

クララ白書


一世を風靡した「集英社コバルト文庫」。
なかでも氷室冴子・久美沙織・田中雅美・正本ノンの4人は鉄板で。
私も田中/正本氏の本こそ読みませんでしたが、当時刊行されていた氷室冴子氏の本はたぶん全部読了しました。久美沙織氏の「丘の上のミッキー」もシリーズ全巻持っていました。

氷室作品といえば。

まずはこの『クララ白書』と続編の『アグネス白書』。
「寄宿舎」という響きに憧れましたね。
文中にしばしば登場する「吉屋信子」という作家の名前を覚えたのもこの小説でした(吉屋信子は、氷室冴子氏が敬愛していた小説家です)。

それから、あるできごとを男のコの目線と女のコの目線からそれぞれ描いた『なぎさボーイ』と『多恵子ガール』。そのあとに出た番外編『北里マドンナ』を加えたシリーズからは、ひとつのできごとを多角的に観ることのおもしろさを学びました。

そしてもっとも大きな影響を受けたのが、平安時代を舞台にしたラブコメ小説『なんて素敵にジャパネスク』!
シリーズ全冊、まだ手元に残してあります。
『~ジャパネスク』を皮切りに、大和和紀の『あさきゆめみし』を経由して、「田辺源氏」、「円地源氏」と読みすすめていったものです。

ちなみに当時、与謝野晶子の源氏物語は途中で挫折しましたが

しかし技術の進歩はすごいもので、この「与謝野源氏」、今は青空文庫から無料で読めちゃうんですよね。kindleの無料版は各巻ごとにダウンロードしなければならないので、そこがちょっと面倒なのですが、全54帖を一冊にまとめたバージョンも99円でダウンロード可。
さっそくkindleストアで購入しました ・・・

そういえば今世紀に入って、瀬戸内寂聴さんの「瀬戸内源氏」も加わりましたね。こちらもまたヒマを見て読みたいと思っています。

残念ながら、氷室冴子氏は2008年に51歳の若さで亡くなられました。
訃報に接したときはとてもびっくりしたことをよく覚えています。

しかしすごいものですね。
あのころ、夢中になって読んだ本は、ほんの一フレーズであっても記憶に残っているんですから。
記憶力も思考力も低下した今、その本を確かに「読んだ」ことは覚えているけれども、何が書かれていたのかは覚えていないという本が山積みの状態です。情けない


多感な時期にいろいろなことを学ばせてもらった氷室冴子氏を偲びつつ、しみじみとドーナツを味わいました。



「文壇レシピ」のサイトでは、番組で紹介されたメニューのレシピが、対応する小説の一節とともに動画で載っています。バックナンバーも見られますよ。今回の「ドーナツ」のレシピもこちらで確認できます。ご関心のある方はぜひのぞいてみてください。

余談ながら、『クララ白書』において、このドーナツをつくったときのしーの・ミッキー・菊花のいでたちは、「黒いタイツに黒いレオタード、ピンクのバレエシューズ」だったこと、さらにマッキーは「ハナエ・モリの濃緑のスカーフ」を「腰にゆるく締め」、「両手には黒のキッドの手袋をはめて」いたことを書き添えておきます


「原宿ブックカフェ」オフィシャルサイト:
 http://www.bsfuji.tv/hjbookcafe/index.html

ネスレ日本 「原宿ブックカフェ」サイト:
http://nestle.jp/entertain/bookcafe/about/index.php