「Phi…?Phi,Mile…Phi…」

キッチンでコーヒーを淹れていると、ライトを落とした薄暗いリビングから子猫が鳴くような心細そうな声が聞こえてきた

「hey,babe…やっと起きたな」

ブランケットに包まってソファに横になった状態のPoに微笑むと、泣きそうな表情でこちらに手を伸ばしてくる

「Phi,Mile…」
「I'm right here,Po…」


運命的な再会を果たしたオーディションから今日までの日々は、毎日が新鮮で、刺激的で、キラキラと輝き…とても幸せに満ち溢れていたのに
足元から崩れ落ちそうなほどの混沌とした今の状況に、自分達は成す術もなく…何も言わず何も動かず静観するしかない苦しい時間を過ごしている
自分よりもこの世界に長くいるPoは、こちらが想像もつかないほどの厳しい現実に過去何度も直面してきているんだろう
脆く崩れ落ちる現実の前で気丈に振る舞うPoは帰宅途中の車の中で頭痛を訴えると、リビングに入るなり気を失うようにソファに倒れ込み、それから途中で一度も目を覚ますことなく時刻はすでに真夜中になっていた


不安そうに伸ばされた手を握ってやり、もう一方の手で髪を梳きながら顔を覗き込む

「具合は?どう?」
「ん、まだ…頭、いたい…」

ソファの端に腰掛けると、Poの頭を膝に乗せてやり指先でマッサージをする

「どこが痛い?この辺?」
「ん…そこ…」
「どう?」
「気持ちいい…いま、何時?もう、夜…?」
「あぁ…ずっと寝てたからお腹空いただろ?」
「んん…空いてない」
「喉は乾いてない?水分は摂った方がいいから、少し待ってな」
「やだ…Phi…wait…no…」

離れるのを嫌がるPoの額に宥めるようにキスを落としてからミネラルウォーターを取りにキッチンへ向かう

「Po, you better drink some water」
「no…I don’t want to…」
「Po…babe…look at me」

そばを離れたことを責めるように水を飲むのを拒否して俯くPoの顔をそっとあげると、頬を伝う涙が見える

「Po…you can talk to me,babe」
「No…I have nothing to talk about…I'm just tired…」
「I know…but I'm worried about you」

Apoはとてもプロフェッショナルで、とてもストイックな人間だ
今回キャスティングされた役者たちの中ではApoがいちばんキャリアが長く、そして経験豊富なのもあって、プレッシャーを感じつつも率先して周りを盛り上げる姿をいちばんそばで見てきた
撮影の予定が延期になるたび、フラストレーションが溜まりそうになるなか、ずっと保ってきた緊張感がここへきてプツンと切れてしまったのだろうことはじゅうぶんに理解できる
正直、これからどうなるかわからない…果たしてこのプロジェクトを辛抱強く待ち続けるファンに無事に届けることができるのか…ただ少しでも良い方向に向かうことを今は願うしかない
Poが悲しむ顔、ファンの子達が悲しむ顔は見たくない

「Po…babe…if you wanna talk to me, I always listen to you, okay?」

頬を伝う涙の雫を、指先で優しく拭い
長い睫毛に溜まる雫には、優しいキスを

「Don't leave me…Phi,Mile…please…」
「NEVER…I love you,Po」
「…please…」
「please,what?babe…」
「…hold me…please?」

消え入りそうなほど小さな声でのお願いに、胸の痛みを感じながらも望みを叶えるためにソファへと一緒に横になって後ろから抱きしめる

華奢なウェストへと腕を回し抱き寄せると、目の前の頸にキスを落とした

「Phi…no…」
「huh?」
「これ、やだ…顔、見たい…」
「oh…sorry」

抱き締めていた腕を離すと、モゾモゾと身体の向きを変えるPoがあまりに可愛くて笑ってしまった

「なに!?」
「いや、可愛いなって…」
「Poはいつでも可愛いよ!?」
「okay,okay…」

拗ねたように唇を尖らせるPoに笑いながらキスをすると、グリグリと頭を擦り付けながらぎゅうっと抱きついてくる
腕の中にしっくりくる温もりと一体感
あぁ…自分の半身をやっと見つけた
この、なんとも言えない感情の昂りをどうやって伝えたらいいのだろうか

もし…もし、このままこのプロジェクトがキャンセルになって、Poと仕事をすることがなくなったとしても、ふたりの関係は変わらない
ずっと続いていくのだ…そして、いつか…

「Po,babe…」
「huh…?」
「someday…」
「……hmm…?」

お互いの温もりが心地よい眠りを誘うのか、Poの意識は再びトロトロと半分夢の中にあるようだ
舌足らずな返事に気にせず、閉じた瞼に口付けながら言葉を続ける 

「someday………will you marry me…?」
「…………」
「I love you,Po…thank you for…」
「WHAT!?」
「OW!!」

突然顔を上げたPoの頭が顎にヒット
鋭い痛みに思わず呻くも、Apoはお構いなしに身体の上に乗っかってくる

「WHAT DID YOU SAY!?」
「…huh?」
「WHAT!DID!YOU!SAY!TO!ME!?」
「…I said I love you」
「NO!!」
「I LOVE YOU!YOU DON'T BELIEVE ME!?」
「oh,oh,oh…NOT THAT!!What did you say before that!?」
「oh!you were listening…I thought you were…」
「you said………」
「I said "will you marry me?"」
「OMG…are you serious!?」
「I'm always serious,babe」
「OMG…you…proposed me!!」
「well...not officially though」
「What do you mean!?」
困惑顔のPoに kissをひとつ

「I don't have a ring yet」
「oh…okay…ring…」
急にshyになるPoの手を取り、スラリとしたring fingerに予約を取りつけるように口付けた
いつかここに世界でひとつだけのringを填めたい

「Po…whatever happened, I will never let go of this hand」
「you promise?」
「yes,baby…I promise」

The truth only needs to be 
known by ourselves