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殆どの人間は、堕落する際にこう人に宣言する。宣言通りになる確率は低いけど。

明日から頑張る

私にも、そんな下らない事を宣っていた時期もあった。今は絶対にこんな事言わないけど。
こんな事言う奴に言いたい。お前やる気あるのかよ、と。それ、やる気の無ェ奴の台詞だから…ってな。

来週になったらね

無ェだろ、絶対。やる気無さ過ぎて欠伸が出るわ。

来月から

来年から

ヌルい…ヌルいよ……。

私を見習え、やる気が無さ過ぎるぞ愚民共!


そう、私は……、



来世から頑張る人間!







狭い借家の寝室。万年床の布団に寝転がりながらパソコンでネットゲームをしていると、コンコンという音が聞こえた。
……瑠璃だ。
カーテンを開くと、金属バットの先が窓をつついているのが見えた。その先には、やはり瑠璃がいた。
家が隣同士な私たちはよくこうして二人で喋る。家と家との間が互いに窓さえ開ければ握手も可能なほど近いのだ。
永井瑠璃。私の友人。地味な顔に合わない金色に染め抜かれた髪は、とても痛んでいる。今日はそれをツインテールにしようと試みたようだ、二つに結わかれている。しかし、私から見て右は殆ど頭のてっぺんの高さで、左は耳の後ろ。不器用なら無理しなきゃ良いのに…ま、本人が良いなら良いけど。因みに瑠璃は巨乳だ。

瑠璃「で、最近どうよ?」

窓を開けた瞬間、安そうなパジャマを着たままの瑠璃が、頬杖をつきながらダルそうに聞いてきた。
暇なんだな。

??「全然ダメ、つい頑張っちゃう。昨日は自力でカップ麺作っちゃった。」

しかもヤカンで。自分でやるような事じゃないっての、そんなの。馬鹿か。

瑠璃「ウチは渚が全部やってくれるからなぁ…。」
??「瑠璃は私よりやる気無い、良いな。」

そう。瑠璃は渚という彼氏を作って以来、面倒な事はどんな事でも全て渚に任せているのだ。今も瑠璃の部屋を掃除しているのが見える。
どうやって彼氏を作ったのかは聞いても答えてくれない。瑠璃のたわわに育った豊かな胸に釣られたんだろうけど、多分。

瑠璃「咲斗も、今後やる気が出さなくてもいいように、彼氏作れば?」

瑠璃は渚に掃除洗濯食事の準備だけに留まらず、他にも、着替えや入浴さえも手伝わせているらしい。羨ましい。

咲斗「《嫁》以外の、人…。」
瑠璃「二次元と現実は違うのよ。とりあえず学校で探してみれば?」

…学校、学校、ね。
別に引きこもっちゃいるけど、学校に行きたくなくて引きこもっているわけでは無い。でも、正直面倒臭いから行かないだけで。

咲斗「学校…かぁ。」

溜息を一つ吐き、タンスの横に目を向ける。くしゃくしゃに脱ぎ捨てられた制服は一ヶ月前からそのまま。



確かに学校まで足を運ぶことは人生において不必要なことと切り捨てることは不可能である。しかし、実際行かなくても困ることはあるが死ぬわけでは無い。だから、行かない「高峰咲斗!?」のだ。しかし、今日の私は少「うわっ、珍し…。し違う。セーラー服を身に纏い、片道十五分の道のりを歩き、学校「高峰来たのっていつ振りだ?」に来「さぁ…?」たの「引きこもりのクセに」だ。
……五月蝿いなぁ、モブが。
こんなんじゃ、ダメそうだな。このままじゃ無駄に頑張りかねないし、帰るか。
教室を出ようとしたら、目の前の扉から教師が入って来やがった。チャイムが鳴り、生徒も席に着いていく。私は早く教室から出たいんだけど、教師が邪魔で。

先生「お、高峰、珍しいな。それより、今日は転校生が来たぞ!」

えっ、うざ。
「まじ!?」「男?女?」なんてモブにありがちな台詞を言う奴らの声も気に食わない。声優やアニソン歌手、瑠璃や渚以外の声を聞くことは私にとって苦痛なのである。

先生「男だ。もう入って良いぞ。」

転校生。おずおず、という言葉がピッタリな入り方。

?「えっと…。」

扉の前にいる私に驚きつつも除け、教師のアイコンタクトを受けて教卓の前へ。
ソイツの容姿は、異様なものだった。
…男?


てか、男の娘!?


小学生にしか見えないのに高校の制服を着込んだソイツは、顔も幼かった。大きな瞳に汚いものが全く映っておらず、無垢な人間であることを物語っていた。色素の薄い肩につくほどに伸ばされた髪。しかし不潔感などは皆無で、むしろ清潔感が溢れている。

澪「新井澪です。」

ふわりと笑った。
そして、頭の中が真っ白になった。

咲斗「…天使。」
澪「え。」

急いでポケットに入ってたコンビニのレシートを取り出し、裏に携帯番号と住所を書き込むと、それを天使の胸に叩きつけた。

咲斗「これ私の携番と住所。放課後来て。先生、私帰るんで。」

教室を出る。

先生「えっ、ちょ…高峰!?」
澪「………。」

…たまには、学校に行くのも怠いけど良いかもしれない。こんな発見があるとは。
しかし、もう天使を見つけた私は学校に用が無い、行くのはまた数ヶ月後に気が向いたときだろうな。



夕方。(一方的な)約束をきちんと守ってくれた天使は、家に来てくれた。Amaz○nの箱を持った宅配の兄ちゃん以外、インターホンが鳴っても無視するのが習慣だった私は、久振りに人を家に入れた。

澪「僕、女の子の部屋に入るの、初めてで…ゔわっ!」

窓を開けると瑠璃が早速反応した。天使の首根っこを掴み、瑠璃に見せつける。

咲斗「GETした。」
瑠璃「ゲーセンの景品かwww」
澪「こ、これは…。」

驚く天使に対し、私は無表情。
しかしよく考えたら驚くのも無理はない。転校初日に意味分からん変な女に家に来いと誘われ、従ったら物のように扱われたんだから。
そういえば、私が誰なのかも知らないはず。

咲斗「自己紹介。私は高峰咲斗。」
瑠璃「ヒキコぅモリぃ…てヤツw」

足りない説明を瑠璃が補足。

澪「引きこ…お、親は?」
咲斗「コレで月百万稼いでたら、何も言わない。」

コレと呼び、指したのはパソコンだった。株とか、エフエックスとか…まぁ、色々あるわけよ。
天使も目を白黒させて驚いたていた。驚きの連発を受けるの、ご苦労様です。

澪「…で、僕はなんでここに?」
咲斗「私が頑張らないよう、天使が代わりに頑張って、以上。」
澪「へ?」

天使?頑張らないよう?なんじゃそりゃ、といった顔だ。当たり前だ。

咲斗「だって瑠璃が、頑張りたくないなら恋人でも作れって。」

手を握る。

澪「こここここ恋人!?」
咲斗「私と、ずっと一緒にいて?」

顔をずいと近付ける。
何故か顔を真っ赤にした天使は、うーんうーんと十秒唸った後、声をうわずらせて返事をした。

澪「………は、はい!」

では、これから私の為に働いてくれる天使に、教えてあげなければ。
私の全てを。

咲斗「契約成立。じゃ、私の信条から説明。私は、今世の五分の一を、無駄にした。そして頑張ることは面倒だと気付き、頑張らないことを頑張る事の魅力に気付いた。面倒な事は先送り。明日から?来週から?来月から?来年から?ヌルい。ヌルいわ。来世から頑張ればいい。死ねば無になる。だったら、今世で頑張る意味って?だから、私は…」



来世から頑張る人間。

高峰咲斗は頑張らない。



勢いに呑まれ驚く天使。
久振りにたくさん喋って息を切らす私。
ケラケラと笑う瑠璃。


これから私の、今まで以上に頑張らない日々が始まる。