♀へ性転換実話
あのときも、
おふろでのことだった。
３歳の、ものごころも浮つくころ。
いっしょに風呂にはいっていた、
２歳年上の従姉は、
わたしの目線をきにしながら
じぶんのおまたを、タオルで隠している。
わたしは心配になって、
ねえ。どうしたの。
とたずねた。
どこかいたいの。
いたくないよ。
じゃあどうしたの。
だって〇〇は、おとこのこだもん。
２歳年上の従姉は、ほほをあからめ
ませたように、いう。
おとこのこは、それがあるの。
おんなのこは、ないの。
だから隠すんだもん。
いまではわかる、従姉は、
母親や大人のまねでもしていたのだろうと。
しかし、そのとき。
それをきいたわたしは、
目が点になった。
でも、〇〇の、これも、
おとなになったら、なくなるよ？
だからいっしょだよ？
わたしはおさないころから、
本当にそうおもっている節があった。
もちろん手術だとか、GIDだとか
そういうことをいったわけではない。
わたしは、自然と、男性の性のそれがきえて、
従姉のもののようになるのだと
信じていたのだ。
いまのわたしがふしぎに思うように、
とうじ、従姉もまた、
ふしぎに思ったにちがいない。
――なくならないよ！
だって〇〇は、おとこのこだもん。
なくならない。
だって〇〇は、おとこのこだから。
おまえは男だから。
今夜のことは、
浮気にすらも
ならない。
ならないことだから。
耳元で、その声が
息をとめてしずむ、湯船のなかあっても
ありありと水をつたい
蘇り、聴こえてくる。
それから幼稚園、小学校
中学校とすぎてゆくなかで、
わたしじしんの性への価値観が、
まわりとは隔たりがあることを
おもいしらされた。
わたしはひっしに、
なにかにしがみついてでも、
生きていたかったのだろう、とおもう。
それがたまたま、
残り香のきえないはじめてのあのひとで、
それはただの偶然で、
ほんのささいなきっかけにすぎない。
黒のセダンが、そんなわたしを置いて、
家族のもとへとかえってゆくことも。
am６時。
親がおきる前に
わたしは湯船からでた。
携帯には、
メールが届いていた。
あのひとからだった。
どうしてだろう。
急に胸があつ燃えはじめて
血脈がはりさけんばかりに
鼓動をうちはじめた。
震える手が、むじかくに、
あのひとの温もりを
たどろうとしている。
あのおおきな背に、
もういちど爪痕をたててやりたい。
そしてわたしのからだのなかに、
あのひとの温もりを――。
ついさきまでは
こんなの
やめよう、と
おもっていたのに。
文面をみるだけで、
どうしても堪らなくなった。
いまにもまた夜に隠れて、
あのひとにまじってしまいたいと
痛烈におもう
水に濡れたままの、
衝動的な自分が、
メールを返信してしまう。
だから逢瀬が、
その夜も約束されてしまうことは
ごく自然なながれ
だったのかもしれない。
しかし。
このときのわたしには
知る由もない。
この罪は、
のちのじぶんが
背負うこととなる
因果のひとつであることを。
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