「好きなんだよね。たぶん、これ以上ないほどに。」


ゆったりとした音楽の流れるカフェに響く私の声。


手に生温い紅茶カップを握り、俯きながらいつもより何テンポか速い自分の心臓の音を聞き続ける。


目の前の彼の顔がどんなに苦痛で歪んでいるのかと考えたら、前を向くことが出来なかった。


それでも耳に飛び込んできたのは想像とかけ離れた音色をしていた。


「そっか。うん、分かったよ。」


驚きでバッと顔を上げると、いつもの優しい微笑みの彼がいて私の頭は混乱する。



……分かったって、何が?


……別れるってこと?




「なんで………、笑ってるの……?」



聞きたいことも言いたいことも山程あるのに、震えて出てきた言葉にそうじゃないだろう、と冷静に頭の中でツッコむ。


「ん?だって、君が苦しそうだから。」

「え……、どういう………。」



意味が分からなくて、じっと彼を見つめる。

いつもの天パでくるくるした髪の毛、へにょりと下がった眉、タレ目がちな優しい目をメガネの奥から覗かせて困ったような、なんて言おうかと迷っているような表情で彼もまた、私を見つめる。



「ん〜、なんて言えばいいかな……。君に好きな人がいるっていうのは気づいてなかったよ。でも、俺よりも心を開きたいって、思ってる人がいるんだろうなっては思ってた。」


驚きと申し訳なさで、言葉が出てこない。


「ちなみに、君が好きになった理由はその子が女の子だから?」


「そんなことない!!女の子だからじゃなくて、人として凄く尊敬してるし、憧れだし、なにより…」


こんな私の側に3年間居続けてくれたの。



目から溢れるものが、私のシャツにシミを作る。


「そう。なら良かった。俺はまだ諦めなくていいね。」


「え?」


「君がその子を女の子だから好きになった、なんて言ったら俺の失恋は確定じゃない?だけど、君は性別は関係ないって言った。なら俺はまだ可能性がある。俺は君に5年片思いして、やっと告白して、2年付き合ってた。それだけでその子との3年間に勝てる気がするし、君の尊敬するような憧れるような人間っていうのもこれから頑張ってなるよ。」


驚いた。彼がこんなに話しているのを初めて見た。


きっと今そう言ったら私は最低な女なんだろうけど、口が勝手に言葉を紡ぐ。


「かっこよすぎるよ、それ。」


彼のきれいなアーモンドアイが一瞬丸くなって、すぐにいたずらっ子のようにニヤリとその目を細めた。


「好きになってくれた?」


「えっ…、えっと………、」


「フフフ、嘘だよ。じゃあ俺が全力で君を口説く為にも、早くその子に告白しな?」


ほら、今連絡したら?


吹っ切れたように明るい声で私のスマホを指差す。


「いや、それは……。」


「え、連絡先知ってるんでしょ?はやくデートに誘いなよ。」

「………。」

「え?まさか…」

「え?」

「ん?」

「ん?」

「……連絡先、知らないの?」

「……ん。」

「ん!?」

「ん?」

「嘘だろ……。」



続く