思い出すのはいつも雲一つない空だ。




その日はおじいさんと縁側で日向ぼっこをしていた。

おばあさんは出かけていていないようだ。

のんびりした時間を過ごしているとおじいさんが話しかけてきた。

「猫さん、ようやく春がきたようだ、良い天気だね。」


「ニャ〜」


「ここの縁側は好きかね」


「ニャ〜」


そう鳴くとおじいさんは嬉しそうな顔をした。


「おばあさんと結婚式をあげた日は雲一つない青空だったんだよ。猫さん、今日のような心地良い日だったんだよ。」


「今日はどんな空だろうなぁ」


そう言うと、おじいさんは空を見上げながらポツリ、ポツリと話しを始めた。


「猫さん、わたしはね、若い時は目は見えていたんだよ。徐々に視力が衰えてきたのは40歳後半でね。20歳の時に医者から言われたんだよ。


『いずれ、目が見えなくなります。』とね。


遺伝だそうだ。」


そう話す悲しそうなおじいさんの横顔をサスケは見ていた。


「だからね、結婚は無理だなと、その時思ってね、諦めていたんだよ。


両親は一生懸命、お見合い相手を探していたんだがね、なかなか。いずれ目が見えなくなるとこには誰も嫁いでは来ないよね。


もうね、半ば諦めていた時にね、おばあさんとのお見合い話しがきたんだよ。


両親は喜んだがね、わたしは複雑は気持ちでね断ろうと思っていたんだよ。」


おじいさんは、少し話を止めた。


すると、おじいさんはニコニコとサスケを見て話し出した。


「おばあさんは、今のままでね、お見合いの席で初めて会った時からケタケタ笑う人だったよ。その笑顔が良くてね。こちらも笑顔になるんだよ。


でもね、お断りしないとね、おばあさんに言ったんだよ。


『いずれ、わたしの目は見えなくなります。こんなわたしのとこにお嫁に来てもあなたに苦労をかけます。ですのでこのお見合いは無かったことにいたしましょう』そう言うとね、おばあさんは、ニコニコ笑ってね

『あら、苦労するとおっしゃるのね。じゃあ、わたしと一緒に苦労の倍に幸せになっちゃいましょう爆笑

びっくりしてね、そんなことを言ってもらえると思ってなくてね、笑いながら涙が出たんだよ。」


そう話しておじいさんは空を見上げながらニコニコしている。


「嬉しかったなぁ」




少し悲しい顔になった。


「猫さん、わたしが居なくなってもここにきておばあさんの横に座っていてくれんかね?」


サスケは一瞬戸惑った。


「もう歳だからね、わたしもいつまで生きていられるかわからないからね。ただ、わたしが先にいなくなったらおばあさんを1人残してしまうから、それはどうしても嫌なんだよ。」




「ただいま〜」


おばあさんが帰ってきた。


「おじいさぁ〜ん、お饅頭買ってきましたよ〜」


「おばあさんが帰ってきたね、猫さん」


それからその時の返事ができないまま、一週間後、おじいさんは亡くなった。




おじいさんが亡くなっても天気の良い日はあの縁側に行きおばあさんの横に座っていた。


最初は元気がなく笑顔は見れなかったが少しずつだが笑うようになり、おじいさんとの馴れ初めを話してくれた。


「おじいさんは覚えていないでしょうけど、小学生の時に転んだわたしを助けてくれたのよ、それがおじいさんとの初めての出会いなのよ」


少女のような顔で微笑んでいる。


「だからね、おじいさんとの縁談話がきた時は嬉しくて、嬉しくて。目が見えなくなる話は聞いていたけどそんなのは関係なかったの。

まあ、おじいさんは断るつもりだったみたいだけど。そんなのは関係ないは。だってわたしの初恋の人と結婚できるのよ、幸せしかないでしょ愛


サスケは少女のような顔で話すおばあさんを見ていると、不思議と懐かしい気持ちになった。

時折思い出す、前世の記憶からなのか。


だが、おばあさんの笑顔が見れるのはサスケはとても嬉しかった。


いつものように美湖が学校に行っている間、おばあさんのところに行った。


塀をヒョイと登り縁側を見たがおばあさんはいなかった。


天気が良い日はいつも縁側に座っているのに今日はいない。


サスケは、塀から降りて、「ニャ〜」とおばあさんを呼んだ。


それでも返事がない。


縁側に上がると、倒れているおばあさんに気づいた。


いつもは家の中には入らないのだが、咄嗟におばあさんのところに行き、鳴いた。


だが、おばあさんの反応はない。


どうしようと困惑しているサスケの頭の中に「ヨネさん!」が、浮かんだ。


急いで隣のヨネさんを呼びに行った。


運よくヨネさんが玄関から出てきたところだった。


「あら〜猫ちゃ〜ん、どうしたの〜わたしは今からお買い物に行って来るのよ〜」


サスケは「ニャーニャー」と必死で鳴いた。


サスケはおばあさんのところに行くように誘導しながら鳴いた。


「おばあさんが大変なんだ、来てくれ!お願いだ!助けてくれ!」


必死に鳴いた。


サスケの様子におかしいとヨネさんが気づいて着いてきてくれた。


ヨネさんが倒れているおばあさんに気づいてくれた。



それから何度かおばあさんの家に行ったが誰もいない。


戸も閉まり、縁側も雨戸がしてある。

いつも座っていた場所には座れなくなった。


あれからおばあさんは命は取りとめたと塀に登っていたサスケにヨネさんが教えてくれた。


それから美湖と暮らす為住み慣れたこの地を離れた。




だから、あの日おじいさんとおばあさんに会えたのは嬉しかった。


もう2人とも亡くなっていたがいつもの笑顔が見れた。


おじいさんが亡くなっておばあさんのところに行っていたがそれはおじいさんから頼まれたからではない。


わたしがあそこに行きたかったからだから、約束を守ったというわけでもない。


おばあさんからわたしのお陰でとお礼を言われたが・・・


2人からお礼を言われてもわたしがしたかったからした行動なのだ。


お礼を言いたいのはわたしの方だ。


わたしの座布団を用意してくれた、嬉しかった、ありがとう。


あ〜それを言いそびれてしまった。


猫も悪くはないものだ。うむ、うむ。


窓辺に座り雲一つない空を見ながらサスケは思った。



ある言葉がサスケの頭の中をよぎった。


何かおじいさんがあの日妙なことを言っていたな。


『今度は逆だね〜』


今の今まで思い出さなかった。


「にゃんてこった凝視どう言う意味だ??」