#507 

『Stories from The Tale of Genji : Yugao』

源氏物語 夕顔

YL 5.5 ‐ 6.5          15370 words

Ladder Series    Level - 4

オススメ ★★★☆☆

 


 

Stories from The Tale of Genji Yugao 源氏物語 夕顔 ラダーシリーズ

 

源氏物語なんて興味ない、全く知らないという人に向けてレビューを書くことにしました


『源氏物語』は世界最古の長編恋愛小説です

登場人物が多すぎるのでなるべくわかりやすく少なく説明します


まず主人公の光源氏という男性は後世の人が勝手に呼んでいるだけで、作中ではそう呼ばれてはいません

光源氏は天皇の息子です

だけど占いの結果「この子が将来天皇になると天下が乱れる」と告げられたので源という姓を与えられて皇族から外されました

これは千年前の「源さんちの光り輝く素敵な人」の恋と友情と出世の物語です

って言うとラノベっぽい


John Grishamは好きだけど法廷が舞台で主人公が弁護士なので、イマイチ登場人物の心理描写が少ない

もっと心理描写が多いものが読みたかったので源氏物語を読むことにしました

これはコレでもうほとんど全てが心理描写とポエムなので、千年前の架空の貴族達に翻弄されて揺さぶられてしまいました


光源氏のお父さんの桐壺帝には正妻がいてそっちには男の子が生まれていたので、暗黙の了解でその男の子の将来は皇太子

だけど桐壺帝は身分の低い女官にも子供を生ませて、それが光源氏

跡目争いや権力闘争はSicilian mafiaだけでなく平安貴族も同じ。駐車場の料金所の所で蜂の巣にされたりはしないけど


光源氏のお母さんは宮中で壮絶なイジメにあい、光源氏が3歳の時に亡くなってしまう

顔も覚えていないお母さんに恋い焦がれていた光源氏が10歳くらいの時に、お父さんの桐壺帝の所に後妻がキター!後妻の藤壺は15歳くらい。しかも光源氏の亡くなったお母さんに顔がそっくりだと周りの人々が皆言いました


光源氏と藤壺は姉と弟のように数年間仲良く過ごしますが、この時代は男子の元服が早い

元服を過ぎた「一人前の大人の男性」には、女性は顔を隠して見せなくなります

光源氏は元服の時に4歳上の女性を娶り既婚者になりました(男女双方とも拒否権なんてありません)


光源氏には、母のように姉のように慕った5歳年上の藤壺が「永遠の理想の女性」になってしまいました


高校の教科書に載せる内容じゃないし、ましてや大学入試の問題に使うなんていけない筈なのにおもしろい

国文科卒なのに古文で読んだ時よりも、今回英語で読んだ方が理解しやすく感情移入してしまいました

むしろ高校の英語の授業でやった方が一生の記憶に残るんじゃないかと思いました


わかったわかった

読みたいのはあのシーンでしょ?

継母と息子(Shining One =光る君)は21歳と16歳くらい


And so it is that one late spring night,The Shining One enters a dark room filled with an unforgettable scent. And for a few brief hours he and the Emperor's favorite wife are no longer younger brother and elder sister,but man and woman・・・


ヤバイ

禁断の書物を読んでるから胸がドキドキする


しかもこのあと藤壺は妊娠するのよ!

光源氏のお父さんの桐壺帝は「まさかこの年でまた子供ができるとは思わなかった!嬉しい」って喜んでるけど、当事者2人と読者は「そのお腹の子の父親はアンタの息子だよ」と知ってる

本当に1000年も前にこんなストーリーを考えついた紫式部って人は偉大な作家だと思います

1000年前にこれを書いたから、それ以降の世界中の似たようなストーリー展開は全部源氏物語のパクリになってしまう。恐ろしい


光源氏にとっては最愛の女性が自分の子供を産んでくれたけれどそれは誰にも言えないし、その女性は永遠に自分一人のものにはならない………なので代わりになる別の女性を探し続けます



今回この本も並行して読みました

最後の参考文献の所に大学3&4年の時のゼミの先生の名前を見つけて懐かしくなった

 

やばい源氏物語 (ポプラ新書)

 

私は光源氏は色んな女性に手を出すけど全部本気だ、真面目な恋多き男性だ!と今まで信じていたけれど違うんだって

ちゃんと読めばそうじゃないってわかるって


光源氏が本気で好きになった女性や妻として扱ってた人は、すらりとした長身であまり見た目については描かれていない

例えば藤壺も「臨月でお腹が大きくても顔は美しい」とかそれくらい

それと反対に小柄な女性は「軽々と抱き上げられてどこかに連れて行かれて、情痴の限りを尽くされる」「軽く扱われる」そうです

高校の教科書に出てきた夕顔も、連れ出されて最期は生き霊に取り憑かれて死んでしまってた

ただのセフレ扱いの女性については「色白でポチャポチャしてて笑うと目元に愛嬌がある」とか描写が細かいそうです

だから1000年前にベストセラーだった頃の読者には「この人には本気」「こっちはセフレ」とすぐに理解できたらしい


そんな読み方をしたことがなかったけど、改めて源氏物語の奥の深さがわかりました



" Inuki let my baby sparrows go ! I was keeping them in a basket "
雀の子を犬君が逃がしつる。伏籠のうちに籠めたりつるものを


『あさきゆめみし』の英語版は雀は一羽だった
しかもこのladder seriesと同じStuart Varnam Atkinさんという翻訳者が一緒です
読みやすかった理由の一つ
先に『あさきゆめみし』を英語で読んでおくとこのladder seriesが読みやすくなると思います

『あさきゆめみし』は漫画家の大和和紀が「建物の端に立ってる光源氏を下から見上げるアングルで描きたい」と思ったら、京都まで行って御所やお寺の縁の下に潜り込んでスケッチしたそうです
漫画の書き込みの細かさは素晴らしい
原文にある台風の翌朝の様子や、雪が積もって吐く息が白いところももちろんきちんと描かれてます
日本語と英語両方が同じページに載ってます

このページにヘソクリ隠してました


2024年7月6日読了 累計語数 922万語



★★★おまけ★★★

在天願作比翼鳥

在地願爲連理枝

天にあっては願はくは比翼(ひよく)の鳥とならん

地にあっては願はくは連理(れんり)の枝とならん

Like two birds of a feather we fly together in the sky

Like two boughs of a tree we will live together until we die


白楽天(白居易)の『長恨歌』より

唐の玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋を歌ったもので、夫婦の仲が睦まじいことや男女の契りが深い様子をあらわす時に引用される


中国大陸の伝説の『比翼の鳥』

雌雄の鳥がそれぞれ一つの目、一つの翼しか持っていないので常にぴったりとくっついて一羽の鳥として飛んで行く

伝説の『連理の枝』

元は二本の別々の木だったのに、枝同士が絡み合い重なり合って一本の木になっている


漢文も英語で読んだ方が理解しやすい


昨夜調べてたら『連理の枝』は日本にあるって!

滋賀県の大津市に

唐の時代の伝説の木が日本に実在するのは何故!?