第6章 自立活動の内容4~6
4環境の把握
(1)保有する感覚の活用に関すること。
「(1)保有する感覚の活用に関すること。」は、保有する視覚、聴覚、触覚、嗅覚、固有覚、前庭覚などの感覚を十分に活用できるようにすることを意味している。
なお、固有覚とは、筋肉や関節の動きなどによって生じる自分自身の身体の情報を受け取る感覚であり、主に力の加減や動作等に関係している感覚である。固有覚のはたらきにより、運動は絶えず軌道修正され、目を閉じていてもある程度正しく運動することができる。
また、前庭覚とは、重力や動きの加速度を感知する感覚であり、主に姿勢のコントロール等に関係している感覚である。前庭覚のはたらきにより、重力に対してどのような姿勢にあり、身体が動いているのか止まっているのか、どのくらいの速さでどの方向に動かしているのかを知ることができる。
(2)感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること。
「(2)感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること。」は、障害のある幼児児童生徒一人一人の感覚や認知の特性を踏まえ、自分に入ってくる情報を適切に処理できるようにするとともに、特に自己の感覚の過敏さや認知の偏りなどの特性について理解し、適切に対応できるようにすることを意味している。
感覚とは、「身体の内外からの刺激を目、耳、皮膚、鼻などの感覚器官を通してとらえる働き」である。認知とは、「感覚を通して得られる情報を基にして行われる情報処理の過程であり、記憶する、思考する、判断する、決定する、推理する、イメージを形成するなどの心理的な活動」である。
障害のある幼児児童生徒の場合、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、固有覚、前庭覚等を通してとらえた情報を適切に理解することが困難であったり、特定の音や光に過敏に反応したりする場合がある。
自閉症のある幼児児童生徒の場合、聴覚の過敏さのため特定の音に、また、触覚の過敏さのため身体接触や衣服の材質に強く不快感を抱くことがある。それらの刺激が強すぎたり、突然であったりすると、感情が急激に変化したり、思考が混乱したりすることがある。そこで、不快である音や感触などを自ら避けたり、幼児児童生徒の状態に応じて、音が発生する理由や身体接触の意図を知らせるなどして、それらに少しずつ慣れていったりするように指導することが大切である。なお、ある幼児児童生徒にとって不快な刺激も、別の幼児児童生徒にとっては快い刺激である場合もある。したがって、個々の幼児児童生徒にとって、快い刺激は何か、不快な刺激は何かをきめ細かく観察して把握しておく必要がある。また、不足する感覚を補うため、身体を前後に動かしたり、身体の一部分をたたき続けたりして、自己刺激を過剰に得ようとすることもある。そこで、例えば、身体を前後に動かしている場合には、ブランコ遊びを用意するなど、自己刺激のための活動と同じような感覚が得られる他の適切な活動に置き換えるなどして、幼児児童生徒の興味がより外に向かい、広がるような指導をすることが大切である。
ADHDのある幼児児童生徒の場合、注意機能の特性により、注目すべき箇所がわからない、注意持続時間が短い、注目する対象が変動しやすいなどから、学習等に支障をきたすことがある。そこで、注目すべき箇所を色分けしたり、手で触れるなど他の感覚も使ったりすることで注目しやすくしながら、注意を持続させることができることを実感し、自分に合った注意集中の方法を積極的に使用できるようにすることが大切である。障害のある幼児児童生徒が言葉や数の学習で示す困難は、個々の認知の特性による場合が少なくない。例えば、LDのある児童生徒の場合、視知覚の特性により、文字の判別が困難になり、「め」と「ぬ」を読み間違えたり、文節を把握することができなかったりすることがある。そこで、本人にとって読み取り易い書体を確認したり、文字間や行間を広げたりして負担を軽減しながら新たな文字を習得していく方法を身につけることが大切である。
こうした認知の特性は、特に、脳性疾患のある幼児児童生徒に見られることが多い。これらの幼児児童生徒は、認知面において不得意なことがある一方で得意な方法をもっていることも多い。例えば、聴覚からの情報は理解しにくくても、視覚からの情報の理解は優れている場合がある。例えば、LDのある児童生徒の場合、書かれた文章を理解したり、文字を書いて表現したりすることは苦手だが、聞けば理解できたり、図や絵等を使えば効率的に表現することができたりする。そこで、本人が理解しやすい学習方法を様々な場面にどのように用いればよいのかを学んで、積極的に取り入れていくように指導することが大切である。また、見やすい書体や文字の大きさ、文字間や行間、文節を区切る、アンダーラインを引き強調するなどの工夫があれば、困難さを改善できる幼児児童生徒もいる。したがって、幼児児童生徒一人一人の認知の特性に応じた指導方法を工夫し、不得意なことを少しずつ改善できるよう指導するとともに、得意な方法を積極的に活用するよう指導することも大切である。
(3)感覚の補助及び代行手段の活用に関すること。
「(3)感覚の補助及び代行手段の活用に関すること。」は、保有する感覚を用いて状況を把握しやすくするよう各種の補助機器を活用できるようにしたり、他の感覚や機器での代行が的確にできるようにしたりすることを意味している。
自閉症のある幼児児童生徒の場合、聴覚に過敏さが見られ、特定の音を嫌がることがある。そこで、自分で苦手な音などを知り、音源を遠ざけたり、イヤーマフやノイズキャンセル
ヘッドホン等の音量を調節する器具を利用したりするなどして、自分で対処できる方法を
身に付けるように指導することが必要である。また、その特定の音が発生する理由や仕組み
などを理解し、徐々に受け入れられるように指導していくことも大切である。他にも、聴覚
過敏のため、必要な音を聞き分けようとしても、周囲の音が重なり聞き分けづらい場合があ
る。こうした場合は、音量を調節する器具の利用等により、聞き取りやすさが向上し、物事
に集中しやすくなることを学べるようにし、必要に応じて使い分けられるようにすること
が大切である。加えて、状況に応じてこれらの器具を使用することを周囲に伝えることがで
きるように指導することも大切である。
(4)感覚を総合的に活用した周囲の状況についての把握と状況に応じた行動に関すること。
「(4)感覚を総合的に活用した周囲の状況についての把握と状況に応じた行動に関すること。」は、いろいろな感覚器官やその補助及び代行手段を総合的に活用して、情報を収集したり、環境の状況を把握したりして、的確な判断や行動ができるようにすることを意味している。
LDのある児童生徒の場合、視知覚のみによって文字を認識してから書こうとすると、目と手の協応動作が難しく、意図している文字がうまく書けないことがある。そのような場合には、例えば、腕を大きく動かして文字の形をなぞるなど、様々な感覚を使って多面的に文字を認識し、自らの動きを具体的に想像してから文字を書くことができるような指導をすることが大切である。
(5)認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること。
「(5)認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること。」は、ものの機能や属性、形、色、音が変化する様子、空間・時間等の概念の形成を図ることによって、それを認知や行動の手掛かりとして活用できるようにすることを意味している。
認知とは、前述したように「感覚を通して得られる情報を基にして行われる情報処理の過程であり、記憶する、思考する、判断する、決定する、推理する、イメージを形成するなどの心理的な活動」を指す。こうした活動を適切に進めていくことによって幼児児童生徒は発達の段階に即した行動をすることが可能となる。
一方、概念は、個々の事物・事象に共通する性質を抽象し、まとめ上げることによって作られるものであり、認知の過程においても重要な役割を果たすものである。
「認知や行動の手掛かりとなる概念」とは、これまでの自分の経験によって作り上げてきた概念を、自分が新たに認知や行動を進めていくために活用することを意味している。したがって、極めて基礎的な概念を指しているが、常時行われる認知活動によって更にそれが変化し、発達に即した適切な行動を遂行する手掛かりとして、次第により高次な概念に形成されていくと考えられる。
自閉症のある幼児児童生徒の場合、「もう少し」、「そのくらい」、「大丈夫」など、意味内容に幅のある抽象的な表現を理解することが困難な場合があるため、指示の内容を具体的に理解することが難しいことがある。そこで、指示の内容や作業手順、時間の経過等を視覚的に把握できるように教材・教具等の工夫を行うとともに、手順表などを活用しながら、順序や時間、量の概念等を形成できるようにすることが大切である。また、自閉症のある幼児児童生徒の場合、興味のある事柄に注意が集中する傾向があるため、結果的に活動等の全体像が把握できないことがある。そこで、一部分だけでなく、全体を把握することが可能となるように、順序に従って全体を把握する方法を練習することが大切である。
ADHDや自閉症のある幼児児童生徒の場合、活動に過度に集中してしまい、終了時刻になっても活動を終えることができないことがある。このような場合、活動の流れや時間を視覚的に捉えられるようなスケジュールや時計などを示し、時間によって活動時間が区切られていることを理解できるようにしたり、残り時間を確認しながら、活動の一覧表に優先順位をつけたりするなどして、適切に段取りを整えられるようにすることが大切である。
LDのある児童生徒の場合、左右の概念を理解することが困難な場合があるため、左右の概念を含んだ指示や説明を理解することがうまくできず、学習を進めていくことが難しい場合がある。このような場合には、様々な場面で、見たり触ったりする体験的な活動と「左」や「右」という位置や方向を示す言葉と関連付けながら指導して、基礎的な概念の形成を図ることが重要である。
例えば、言葉の理解が難しいものの、特定の色を分類できる幼児児童生徒の場合には、教室から体育館までの経路の要所に特定の色を提示して、それを手掛かりに体育館まで一人で移動をすることが考えられる。
5身体の動き
(1)姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること。
「(1)姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること。」は、日常生活に必要な動作の基本となる姿勢保持や上肢・下肢の運動・動作の改善及び習得、関節の拘縮や変形の予防、筋力の維持・強化を図ることなどの基本的技能に関することを意味している。
姿勢には、臥位、座位、立位などがあり、あらゆる運動・動作の基礎になっている。姿勢を保持することは、広い意味では動作の一つである。これらの姿勢保持と上肢・下肢の運動・動作を含めて基本動作というが、この基本動作は、姿勢保持、姿勢変換、移動、四肢の粗大運動と微細運動に分けることができる。
ADHDのある幼児児童生徒の場合、身体を常に動かしている傾向があり、自分でも気付かない間に座位や立位が大きく崩れ、活動を継続できなくなってしまうことがある。このような幼児児童生徒に対しては、身体を動かすことに関する指導だけでなく、姿勢を整えやすいような机やいすを使用することや、姿勢保持のチェックポイントを自分で確認できるような指導を行うことが有効な場合がある。
(2)姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること。
「(2)姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること。」は、姿勢の保持や各種の運動・動作が困難な場合、様々な補助用具等の補助的手段を活用してこれらができるようにすることを意味している。
「(1)姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること。」の「①この項目について」に示すとおり、姿勢保持と上肢・下肢の運動・動作を含めて基本動作という。この基本動作は、姿勢保持、姿勢変換、移動、四肢の粗大運動と微細運動に分けることができる。
基本動作の改善及び習得を促進し、日常生活動作や作業動作の遂行を補うためには、幼児児童生徒の運動・動作の状態に応じていろいろな補助的手段を活用する必要がある。また、この補助的手段の活用に関する指導内容には、各種の補助用具の工夫とその使用法の習得も含まれている。
(3)日常生活に必要な基本動作に関すること。
「(3)日常生活に必要な基本動作に関すること。」は、食事、排泄、衣服の着脱、洗面、入浴などの身辺処理及び書字、描画等の学習のための動作などの基本動作を身に付けることができるようにすることを意味している。
LDのある児童生徒の場合、鉛筆の握り方がぎこちなく過度に力が入りすぎてしまうこと、筆圧が強すぎて行や枠からはみ出てしまうこと等、手や指先を用いる細かい動きのコントロールが苦手な者もいる。更に、上手く取り組めないことにより焦りや不安が生じて、余計に書字が乱れてしまうことがある。このような原因としては、目と手、右手と左手等を協応させながら動かす運動が苦手なことが考えられる。このような場合には、本人の使いやすい形や重さの筆記用具や滑り止め付き定規等、本人の使いやすい文具を用いることにより、安心して取り組めるようにした上で指導することが大切である。また、自分の苦手な部分を申し出て、コンピュータによるキーボード入力等で記録することや黒板を写真に撮ること等、ICT機器を用いて書字の代替を行う事も大切である。
(4)身体の移動能力に関すること。
「(4)身体の移動能力に関すること。」は、自力での身体移動や歩行、歩行器や車いすによる移動など、日常生活に必要な移動能力の向上を図ることを意味している。
移動とは、自分で自分の身体を動かし、目的の場所まで行くことで、興味や関心を広げる上でも重要な手段であり、自立するために必要な動作の一つである。一般に、首のすわりから始まって、寝返りから座位へと続く、いわゆる初期の運動・動作の発達の到達点が歩行である。
(5)作業に必要な動作と円滑な遂行に関すること。
「(5)作業に必要な動作と円滑な遂行に関すること。」は、作業に必要な基本動作を習得し、その巧緻性や持続性の向上を図るとともに、作業を円滑に遂行する能力を高めることを意味している。
作業に必要な基本動作を習得するためには、姿勢保持と上肢の基本動作の習得が前提として必要である。つまり、自分一人で、あるいは補助的手段を活用して座位保持ができ、机上で上肢を曲げたり伸ばしたり、ものを握ったり放したりするなどの動作ができなければならない。
また、作業を円滑に遂行する能力を高めるためには、両手の協応や目と手の協応の上に、正確さや速さ、持続性などの向上が必要である。さらに、その正確さと速さを維持し、条件が変わっても持続して作業を行うことができるようにする必要がある。
ADHDのある幼児児童生徒の場合、注意の持続の困難さに加えて、目と手の協応動作や指先の細かい動き、体を思った通りに動かすこと等が上手くいかないことから、身の回りの片付けや整理整頓等を最後まで遂行することが苦手なことがある。そこで、身体をリラックスさせる運動やボディーイメージを育てる運動に取り組みながら、身の回りの生活動作に習熟することが大切である。
また、ADHDのある幼児児童生徒の場合、手足を協調させて動かすことや微細な運動をすることに困難が見られることがある。そのため、目的に即して意図的に身体を動かすことを指導したり、手足の簡単な動きから始めて、段階的に高度な動きを指導したりすることなどが必要である。また、手指の巧緻性を高めるためには、幼児児童生徒が興味や関心をもっていることを生かしながら、道具等を使って手指を動かす体験を積み重ねることが大切である。例えば、エプロンのひも結びについて、一つ一つの動作を身に付けることから始め、徐々に身に付けた一つ一つの動作をつなげ、連続して行えるようにすることが大切である。その際、手本となる動作や幼児児童生徒自身の動作を映像で確認するなど、自ら調整や改善を図っていくことができるよう工夫することが大切である。
自閉症のある幼児児童生徒の場合、自分のやり方にこだわりがあったり、手足を協調させてスムーズに動かしたりすることが難しい場合がある。また、他者の意図を適切に理解することが困難であったり、興味のある一つの情報のみに注意が集中してしまったりすることから、教師が示す手本を自ら模倣しようとする意識がもてないことがある。その結果、作業に必要な巧緻性などが十分育っていないことがある。
このような場合には、一つの作業についていろいろな方法を経験させるなどして、作業のやり方へのこだわりを和らげたり、幼児児童生徒と教師との良好な人間関係を形成し、幼児児童生徒が主体的に指導者の示す手本を模倣しようとする気持ちを育てたりすることが大切である。
6コミュニケーション
(1)コミュニケーションの基礎的能力に関すること。
「(1)コミュニケーションの基礎的能力に関すること。」は、幼児児童生徒の障害の種類や程度、興味・関心等に応じて、表情や身振り、各種の機器などを用いて意思のやりとりが行えるようにするなど、コミュニケーションに必要な基礎的な能力を身に付けることを意味している。
コミュニケーションとは、人間が意思や感情などを相互に伝え合うことであり、その基礎的能力として、相手に伝えようとする内容を広げ、伝えるための手段をはぐくんでいくことが大切である。
自閉症のある幼児児童生徒の場合、興味のある物を手にしたいという欲求が勝り、所有者のことを確認しないままで、他者の物を使ったり、他者が使っている物を無理に手に入れようとしたりすることがある。また、他の人の手を取って、その人に自分が欲しい物を取ってもらおうとすることもある。このような状態に対して、周囲の者はそれらの行動が意思の表出や要求を伝達しようとした行為であることを理解するとともに、幼児児童生徒がより望ましい方法で意思や要求を伝えることができるよう指導することが大切である。
言語発達に遅れがある幼児児童生徒の場合、語彙が少ないため自分の考えや気持ちを的確に言葉にできないことや相手の質問に的確に答えられないことなどがある。そこで、幼児児童生徒の興味・関心に応じた教材を活用し、語彙を増やしたり、ことばのやりとりを楽しんだりすることが必要である。特に、幼児の場合は、言語による直接的な指導以外に、絵画や造形活動、ごっこ遊びや模倣を通して、やりとりの楽しさを知り、コミュニケーションの基礎を作ることが大切である。
(2)言語の受容と表出に関すること。
「(2)言語の受容と表出に関すること。」は、話し言葉や各種の文字・記号等を用いて、相手の意図を受け止めたり、自分の考えを伝えたりするなど、言語を受容し表出することができるようにすることを意味している。
意思が相手に伝わるためには、伝える側が意思を表現する方法をもち、それを受ける側もその方法を身に付けておく必要がある。このように言語を受容したり、表出したりするための一般的な方法は音声や文字であるが、幼児児童生徒の障害の状態や発達の段階等に応じて、身振りや表情、指示、具体物の提示等非言語的な方法を用いる必要がある場合もある。
自閉症のある幼児児童生徒の中には、他者の意図を理解したり、自分の考えを相手に正しく伝えたりすることが難しい者がいることから、話す人の方向を見たり、話を聞く態度を形成したりするなど、他の人との関わりやコミュニケーションの基礎に関する指導を行うことが大切である。その上で、正確に他者とやりとりするために、絵や写真などの視覚的な手掛かりを活用しながら相手の話を聞くことや、メモ帳やタブレット型端末等を活用して自分の話したいことを相手に伝えることなど、本人の障害の状態等に合わせて様々なコミュニケーション手段を用いることが有効である。また、相手の言葉や表情などから、相手の意図を推測するような学習を通して、周囲の状況や他者の感情に配慮した伝え方ができるようにすることも大切である。
ADHDのある幼児児童生徒の場合、思ったことをそのまま口にして相手を不快にさせるような表現を繰り返したりすることがある。このような要因としては、行動を調整したり、振り返ったりすることが難しいことや、相手の気持ちを想像した適切な表現の方法が身に付いていないことが考えられる。このような場合には、教師との個別的な場面や安心できる小集団の活動の中で、相手の話を受けてやりとりをする経験を重ねられるようにしたり、ゲームなどを通して適切な言葉を繰り返し使用できるようにしたりして、楽しみながら身に付けられるようにしていくことが大切である。また、こうした言葉のやり取りの指導を工夫するほか、体の動きを通して気持ちをコントロールする力を高めること、人と会話するときのルールやマナーを明確にして理解させること、会話中に相手の表情を気にかけることなどを指導することが大切である。
(3)言語の形成と活用に関すること。
「(3)言語の形成と活用に関すること。」は、コミュニケーションを通して、事物や現象、自己の行動等に対応した言語の概念の形成を図り、体系的な言語を身に付けることができるようにすることを意味している。
コミュニケーションは、相手からの言葉や身振り、その他の方法による信号を受容し、それを具体的な事物や現象と結び付けて理解することによって始まる。したがって、言語の形成については、言語の受容と併せて指導内容・方法を工夫することが必要である。その際には、語彙や文法体系の習得に努めるとともに、それらを通して言語の概念が形成されることに留意する必要がある。
言語発達に遅れのある幼児児童生徒の場合、語彙が少ないため自分の考えや気持ちを的確に言葉にできないことや相手の質問に的確に答えられないことなどがある。そこで、幼児児童生徒の興味・関心に応じた教材を活用し、語彙を増やしたり、言葉のやりとりを楽しんだりすることが必要である。特に、幼児の場合は、言語による直接的な指導以外に、絵画や造形活動、ごっこ遊びや模倣を通して、やりとりの楽しさを知り、コミュニケーションの基礎的能力に関する項目と関連付けて具体的な指導内容を設定することが大切である。
LDのある児童生徒の場合、言葉は知っているものの、その意味を十分に理解せずに活用したり、意味を十分に理解していないことから活用できず、思いや考えを正確に伝える語彙が少なかったりすることがある。そこで、実体験、写真や絵と言葉の意味を結び付けながら理解することや、ICT機器等を活用し、見る力や聞く力を活用しながら言語の概念を形成するように指導することが大切である。
言葉の発達に遅れのある場合、コミュニケーションを円滑に行うことが難しい。このような要因としては、話す、聞く等の言語機能に発達の遅れや偏りがあるために、結果的に乳幼児期のコミュニケーションが十分に行われなかったことや言語環境が不十分なことが考えられる。このような場合には、自立活動担当の教師との安心できる場で言葉遊びを行ったり、作業や体験的な活動を取り入れたりすることが大切である。また、語彙の習得や上位概念、属性、関連語等の言語概念の形成には、生活経験を通して、様々な事物を関連付けながら言語化を行うことが大切である。そのためには、課題の設定を工夫して幼児児童生徒に「できた」という経験と自信をもたせ、コミュニケーションに対する意欲を高め、言葉を生活の中で生かせるようにしていくことが大切である。
(4)コミュニケーション手段の選択と活用に関すること。
「(4)コミュニケーション手段の選択と活用に関すること。」は、話し言葉や各種の文字・記号、機器等のコミュニケーション手段を適切に選択・活用し、他者とのコミュニケーションが円滑にできるようにすることを意味している。
近年、科学技術の進歩等により、様々なコミュニケーション手段が開発されてきている。そこで、幼児児童生徒の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等に応じて、適切なコミュニケーション手段を身に付け、それを選択・活用して、それぞれの自立と社会参加を一層促すことが重要である。
自閉症の幼児児童生徒で、言葉でのコミュニケーションが困難な場合、まず、自分の意思を適切に表し、相手に基本的な要求を伝えられるように身振りなどを身に付けたり、話し言葉を補うために絵カードやメモ、タブレット端末等の機器等を活用できるようにしたりすることが大切である。また、順を追って説明することが困難であるため、聞き手に分かりやすい表現をすることができないことがある。そこで、簡単な絵に吹き出しや簡単なセリフを書き加えたり、コミュニケーションボード上から、伝えたい項目を選択したりするなどの手段を練習しておき、必要に応じてそれらの方法の中から適切なものを選んで使用することができるようにすることが大切である。
LDのある児童生徒の場合、読み書きの困難により、文章の理解や表現に非常に時間がかかることがある。そこで、コンピュータの読み上げ機能を利用したり、関係性と項目を図やシンボルなどで示すマインドマップのような表現を利用したりすることで、コミュニケーションすることに楽しさと充実感を味わえるようにしていくことが大切である。
(5)状況に応じたコミュニケーションに関すること。
「(5)状況に応じたコミュニケーションに関すること。」は、コミュニケーションを円滑に行うためには、伝えようとする側と受け取る側との人間関係や、そのときの状況を的確に把握することが重要であることから、場や相手の状況に応じて、主体的にコミュニケーションを展開できるようにすることを意味している。
障害による経験の不足などを踏まえ、相手や状況に応じて、適切なコミュニケーション手段を選択して伝えたりすることや、自分が受け止めた内容に誤りがないかどうかを確かめたりすることなど、主体的にコミュニケーションの方法等を工夫することが必要である。こうしたことについては、実際の場面を活用したり、場を再現したりするなどして、どのようなコミュニケーションが適切であるかについて具体的に指導することが大切である。
また、友達や目上の人との会話、会議や電話などにおいて、相手の立場や気持ち、状況などに応じて、適切な言葉の使い方ができるようにしたり、コンピュータ等を活用してコミュニケーションができるようにしたりすることも大切である。
LDのある児童生徒の場合、話の内容を記憶して前後関係を比較したり類推したりすることが困難なため、会話の内容や状況に応じた受け答えをすることができない場合がある。このような場合には、自分で内容をまとめながら聞く能力を高めるとともに、分からないときに聞き返す方法や相手の表情にも注目する態度を身に付けるなどして、そのときの状況に応じたコミュニケーションができるようにすることが大切である。
自閉症のある幼児児童生徒の場合、会話の内容や周囲の状況を読みとることが難しい場合があるため、状況にそぐわない受け答えをすることがある。そこで、相手の立場に合わせた言葉遣いや場に応じた声の大きさなど、場面にふさわしい表現方法を身に付けることが大切である。なお、その際には、実際の生活場面で、状況に応じたコミュニケーションを学ぶことができるような指導を行うことが大切である。
家庭などの生活の場では普通の会話ができるものの、学校の友達とは話すことができないなどの選択性かん黙の幼児児童生徒の場合、まず、気持ちが安定し、安心できる状況作りや信頼できる人間関係作りが重要である。その上で、幼児児童生徒が興味・関心のある事柄について、共感しながら一緒に活動したり、日記や作文などを通して気持ちや意思を交換したりする機会を多くすることが大切である。また、状況に応じて、筆談などの話し言葉以外のコミュニケーション手段を活用することも大切である。その際、幼児児童生徒が自信をもち、自己に対して肯定的なイメージを保つことができるような指導をすることが大切である。
自閉症のある幼児児童生徒の場合、援助を求めたり依頼したりするだけでなく、必要なことを伝えたり、相談したりすることが難しいことがある。このような要因としては、思考を言葉にして目的に沿って話すことや他者の視点に立って考えることが苦手なことなどが考えられる。また、コミュニケーションにすれ違いが生じることが多いことから、話す意欲が低下していることが考えられる。このような場合には、日常的に報告の場面をつくることや相手に伝えるための話し方を学習すること、ホワイトボードなどを使用して気持ちや考えを書きながら整理していくことが大切である。また、こうしたコミュニケーションの基礎的な指導を工夫するほか、安心して自分の気持ちを言葉で表現する経験を重ね、相談することのよさが実感できるように指導していくことが大切である。