幼稚園時代の失敗といえば、トイレの失敗だ。いや、その後もトイレの失敗はずっとついてまわるのだが・・・
私は、とてもトイレが近かった。外出中に、しょっちゅう「お母さん、おしっこ・・・」と、母の袖を引っ張っては、母にいやな顔をされた。半世紀以上も前のこと、当時の公衆トイレは現在のように衛生的ではなかった。母は、自宅外でトイレを利用することをとても嫌った。
だから、私に極力水分をとらせないようにしていた。
それでも、トイレには行きたくなる。
私がトイレに行きたいと言うと、母は顔をしかめながら、「またトイレにいきたいの? ほんとうにあなたはトイレが近いのね。」と言いながら、いやいや私をトイレに連れて行く。母が嫌がっているのがわかるから、私はトイレに行きたくなっても、我慢する。ぎりぎりまで我慢して、とうとう漏らしてしまう。すると母は怒る。「どうしてもっと早く言わなかったの!」と。その繰り返しだった。
トイレに(しょっちゅう)行くことは、良くないこと、悪いことなのだと、無意識のうちに私には刷り込まれていたのだろう。幼稚園に通うようになっても、トイレに行きたいときに、素直に先生に言えなかった。そして、漏らしてしまうことがよくあった。
それが、母にとってはたまらなく恥ずかしいことだったのだろう。
もう幼稚園に通っているのに。弟も生まれてお姉ちゃんになったのに。ほかの子はそんな失敗はしないのに。
このころ、母が笑顔で私に接してくれている記憶が、私にはない。
母からみて私は、母が娘に望むものを、何ひとつ持っていなかったのだと思う。
そして、決め台詞のように言った。
「そんな子はね、お友達に嫌われて、お友達がいなくなっちゃうのよ。」
このころの私は、まだ自分の心のなかを言語化して理解することはできなかったが、たぶん、母も私を嫌っているのだと、認識していたのだろうと思う。