幼稚園の年長で一緒のクラスになったN子ちゃんは、幼い私から見てもきれいな子だった。
背が高くて、丸顔で、色が白くて、目がぱっちりしていて、長い髪を三つ編みのおさげにしていた。私も同じように長い髪を三つ編みのおさげにしていたけれど、N子ちゃんのほうがずっとかわいく見えた。
そのN子ちゃんが亡くなった。虫垂炎に肺炎を併発したということだった。
N子ちゃんの葬儀には、同じ幼稚園の園児たちが母親に連れられて参列した。私も母に連れられて、Y子ちゃんとY子ちゃんの母親と一緒に参列した。
その帰り道。母とY子ちゃんの母親の話題は、たぶん子どもの健康のことだった。
Y子ちゃんの母親が、誰かのことを話していた。
「あそこのお子さんはね、とっても丈夫で、生まれてから今までに1回くらいしかもどしたことがないんですって。」
もどすというのは、つまり食べたものを吐き戻すということだった。
それをきいた私の母が、
「ああ、うらやましい。」
と、心底うらやましそうな顔をした。
私は幼い頃、感情が高ぶったり叱られたりして激しく泣いたときに、よく吐き戻した。衣服や床を汚して、また母に叱られた。とくに、父の実家に帰省した際に私が吐き戻して寝具を汚した時は、祖父母に申し訳なくていたたまれなかったに違いないと思う。
母は、私がその子のように、吐き戻したりしない子どもであってくれればと思ったことだろう。よく吐き戻す私を、母は疎ましく思っているのだろうと思った。私をかわいいとは思っていないのだろうと思った。ああ、うらやましい、と言ったときの母の表情を、その後私は何度も思い返すことになった。
かわいらしくて、きっとその母親に愛されていたに違いないN子ちゃんにくらべて、かわいくもなく母に愛されてもいないだろう自分を、私はかなしく思ったのだった。
