前置きが長くなりましたが、
やっぱり音楽に一番大切なのは感動。
ようやく本題に入って、「Monster」の歌詞メロディーの中の感動の黄金律です。
音楽の感動を感じるのに一番わかり易いのはメロディーラインです。
これはとても単純に見ることができます。音が上がれば気持ちが高揚し、下がれば沈む。感動する音楽のメロディーのパターンは上がっていって頂点を作り、下がっていくと言う山をいくつも作りながら、最後の頂点(旋律の頂点=一番高い音が多い)を作ってクライマックスを形成します。
マイケルはこの鉄則を作曲、作詞、演奏にもきちんと当てはめて私達を感動の旅に誘うのです。
一見すると単純すぎて物足りないように聞こえる「Monster」ですが、そういう曲だからこそ緻密な構成力で「感動の旅路」を作っています。この曲ではサビの「He is a monster, He is an animal」のところにクライマックスが来て万感がこもるようにできています。
そこに至る旅路を作るのはメロディーだけではなくリズム、和音、アレンジなどいろいろあるのですが、まずマイケルのこだわりのリズムから見たいと思います。
ちょっと長くなるので、お茶でも飲みながらゆっくり気楽にご覧ください。
「Monster」のビートとリズムパターン
ファンク調の細かいビートが刻まれているのが特徴ですね。
この刻みがもたらす感情の波と感動の山を見てみました。まずは細かく最初の二連です。
●は八分音符で、/は小節の区切り(小節線)で四分の四拍子で数えています。一小節のなかに8個の8分音符(8音節)が入ります。
●・は四分音符または八分音符+八分休符。
☆は4分休符です。
音楽を聴きながら、リズムだけ確認していただくと音符と音節がぴったりと合っていることがわかります。英語の歌曲の原則は一音節一音符です。あまりメロディーと歌詞が合っていない曲も中にはあって、字余りや字足らずなものがあります。この曲の場合はぴったり合っています。
そして曲調が盛り上がるにつれ、音節の数が徐々に増え、畳み掛けるような緊張感を作り出しています。(メロディーは二行ごとに繰り返し)
パパラッチにじわじわと追い詰められる、圧迫されるような心理状態が見事に表されています。
右端が音節の数。綺麗な盛り上がりの山を形成します。
※英語の音節は母音を中心に形成されます。音節数=母音の数です。
ただし二重母音も長母音も1と数えます。
1
1☆You can look at them / coming out the walls/
☆ ● ● ● ● ●・ ● ● ● ● ●・・・ 10
2☆ You can look at them / climbing out the bushes /
☆ ● ● ● ● ●・ / ● ● ● ● ●・ ● ・ / 11
3☆You can find them when the / letter's bout to fall /
☆ ● ● ● ● ● ● / ● ● ● ● ● ・・・/ 11
4☆He be waiting with his / camera on focus/
☆ ● ● ● ● ● ● / ● ● ● ● ●・●・ / 12
2
1☆Everywhere you seem to /turn there's a monster/
☆● ● ● ● ● ● / ●・ ● ● ●・ ●・/ 11
2☆When you look up in the /air there's a monster/
☆ ● ● ● ● ● ● / ●・ ● ● ●・●・/ 11
3☆Paparazzi got you /scared like a monster/
☆ ●●● ● ● ● / ●・ ● ● ●・ ●・ / 11
4Monster Monster/ Monster
●・ ●・ ●・ ●・/ ●・ ●・ 6
※第一連を見ます。
メロディー的には二行ごとに区切れていて同じメロディー・リズムパターンが二回繰り返されます。
その中で一行ごとの音節の数を見ますと、10→11→11→12と増えていきます。
3-4行目では、1-2行目にあった一小節目の終わりの休符がなくなっており、
2小節通して音節がつながり緊迫感が出ています。(2行目は5拍+6拍で少し間に区切れが入り、3行目は11拍一息に歌っている感じ)
しだいに、また徐々に音が増えることで、じわじわと迫りくる圧迫感と恐怖感を煽る効果を出しています。
4行目で一つの盛り上がりの山ができます。
(音節(音符)を増やしても音楽的な問題は生じていません。)
同じ強さと長さの八分音符をマシンガンのように並べるのはマイケルの音楽の特徴の一つで黒人音楽的と言えると思います。(「Billie Jean」, 「Smooth Criminal」 「They Don't Care About Us」などにも見られる)
白人(英語話者)の音楽は●● ●● ●● で表されるように、強拍と弱拍を組み合わせることでリズムを作ります。これを黒人音楽と比較すると次のようになります。
白人音楽 ●●●●●●●●● 強拍と強拍の間の時間的なさが均等
黒人音楽 ● ● ● ● ● ● 均等な強さの拍の一つ一つの間の長さ が均等
この音楽の特徴は、白人のしゃべる英語と黒人英語の特徴がそのまま当てはまっています。黒人の英語にはアフリカの言語の持つリズムがそのまま残っているからです。
「Monster」の音楽は音域が狭い範囲でメロディーが作られており、リズムの形からしても黒人音楽の中でもラップ的な要素もあるものであると感じられます。第一連はリズムパターンを繰り返すこと、畳み掛けるマシンガンのような刻みのリズムが音節数を増やすことによって徐々に盛り上がりの第一の山を形成しています。(4行目のcarmeraのところ。1音節または2音節の単語が繰り返されるのなか、一つだけ3音節の単語である。)
※第二連
第二連の音節数は増えていません。しかしこの第二連では、「Monster」「パパラッチ」というキーワードを配することで、その言葉の重みで盛り上がりを作ります。メロディーは第一連の変奏になっており、同じメロディーを繰り返していると考えられますのでその点でも第一連より一段高い感情の盛り上がりが見られます。1小節目とに小節目の間に休符が無く11拍が一息に繋がります。
第一連でじわじわと迫ってくる「やつら」。「やつら」が顔を見せるのです。奇怪な「Monster」。それはこの曲のテーマの登場。当然朗読したり歌ったりするときはそこにアクセント(ストレス)を置きます。そして最後にその「Monster」の正体がパパラッチだということがわかるという筋書きです。
「Paparacchi」という語のところで音がこの2連の中で唯一4音節単語で、ここに第一連より高い山(クライマックス)が来ます。つまり出だしから徐々に盛り上がって緊張感が高まって一連の最後で一つ目のピークが来て、第二連でそのまま緊張しながら第二連4行目で頂上に達すると言うことです。
ただ聞いていると同じ事を繰り返してるみたいに聞こえるけど、細かく細かく細かく変化をつけてます!!!
ほんとに完璧といえるほど人間の心理を知り尽くした構成なんです~~~。
繰り返すことで自分の主張をとことん聞く人の深層心理に刻み込む。でも微妙な変化をつけることで飽きさせない。そして盛り上がりの山を上手く作って「カタルシス」を与える。
この冒頭の2連だけでどんだけ手間隙掛けてるの?!
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長い文章にお付き合いいただいてありがとうございます。
長くなったのでいったん休憩してくださいませm_ _m
このリズム、できたらマイケルと一緒にご唱和いただくとよりその感覚が掴み易いと思います。一小節を二拍で手など叩きながら、音の高さはこの際無視して、ラップのように声を出して見ると、このリズム、ビート感が伝わってきませんか?
次の記事ではメロディーのパターンや高低、もっと幅広い複合リズムなども加えて
第一連と第二連合わせた盛り上がりの図を加えながら欠いてみたいと思います。
続く。リズムの山とメロディーの山は一致してるのか?ドキドキ。