第三宇宙速度

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雑多な気分と言葉で書きなぐる掃き溜め

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 俺には弟がいる。歳は八つほどしか離れていないが、まるで末の妹のように溺愛している弟がいる。何をやらせても出来損ないで、運動にも勉学にも青春にも励もうとせず、ただただ周りの流れのおかげで生きているだけの弟がいる。楽しいことを何一つ見出すことなく、悲しいことばかりを思い出しては憤慨して、時折死にたいと言葉を漏らす弟がいる。弟は決まって2人の子供部屋で、弟色に染まったベッドの上で膝を抱えて泣きべそをかいて死にたいと願望を零す。そんな時、兄として何か一言でもかけてやれればいいのだが、弟の無様な姿を見ていると掛けるべき言葉を見失ってしまう。可哀想と同情的だからではない。自分より勝っている姿を見たくない酷い劣等感がためである。また、今の自分より劣っている弟の姿を見ることは、醜い己の自尊心を満たすためでもある。最早親からも期待されない弟と、比較すればまだ期待が持てる程度の自分とでは、明らかに後者の方が前者よりも優れていると皆が勘違いしてくれるのもありがたい。存在としてどちらが不必要なのかはさておき、だ。

 

 出来損ないの弟という存在があるからこそ、平凡な兄という存在があることを許されている。例え試験の結果が極めて平均的であっても、下手とも上手とも言い難いスポーツの成績を残しても、特筆する事項が一つも存在しない企業に配属になっても、その全てを下回る人生を過ごすしかない弟に比べると俄然マシな方であると錯覚できる。自分より下の弟がいる、そう思うだけで今ある生活の全てが整っていると感じられるのである。そう、それはまるで一種のマジナイのように。弟の存在を思うだけで、底知れぬ優越感を味わうことが出来る。だから俺は、これからも兄として、八つ離れた出来損ないの弟を溺愛し続けたいと思っている。自身の私利私欲のためだけに。

 

 

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弟編に続く ... ( かどうかは未定 )

※創作