何となく夕方の曇り空を見ていて思いついたお話です。珍しく前後2話で終わります。
☆☆☆☆☆☆☆☆
ロケバスはスムーズにホテルに滑り込み、みなそれぞれ宛がわれた部屋に入った。私は共演者の百瀬さんと同室。ダークムーン以来久しぶりの百瀬さんとの共演はすごく嬉しい。しかも同室なんて幸せだ。
宴会場でご飯を食べて、翌日の集合時間までは自由時間となった。百瀬さんはホテル内にあるジムで運動してくると言い残して部屋を出ていった。私はさっき中居さんから聞いていた露天風呂に行くことにした。さすがに夕方近くのあの雨は体を冷やしていたみたいでなんとなく体が気だるかったから、のんびりお湯に浸かって体をほぐそうと思った。
露天風呂なんて京都のショータローの実家にいた頃使わせていただいて以来入ってなかったから、ウキウキしながら廊下を進んだ。そして、大きく『女湯』と書かれたのれんをくぐって脱衣場へ。この時期繁忙期ではないのでこのホテルに泊まっているのは私達の団体だけだと聞いていたのでゆったりした気持ちで露天風呂に向かった。
風呂場は湯気がこもっていてなんとも風情を感じる。かけ湯をして体を沈めると、じんわり体に染み渡るお湯が疲れを取り去ってくれる感覚になる。「ん~」とゆっくりのびをして息をはく。「極楽極楽…」
思いの外奥行きのある露天風呂。奥の方まで進んでいくと少し遠いところに人の気配を感じた。(あら、先客がいたのね。だれだろう。百瀬さんはジムだし、スタッフさんかな?)
私はこのクルーの中ではまだまだ新参者なので、こちらから挨拶させていただくのが礼儀。
「お疲れ様です。」
軽く声をかけたら相手が息を飲むような気配を感じた。おどろかせちゃったのかな。
「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったんですけど、びっくりさせちゃいましたか?」
少しの間があって
「…最上さん?」
(えっ?この声は敦賀さん?なんで?)
私は耳障りのいいテノールに半ばパニックになりかける。
「つ、つ、敦賀さん?なんでここに?ここは女湯ですよね?」
「いやあの、俺は、ちゃんと男湯に…」
「私はちゃんと…女湯…に」
「「…」」
「あっ!」
「えっ?」
「ここのお風呂、脱衣場だけ別で中は混浴になってるんですね?」
「そ…なの?」
その時、いままではっきり見えなかった人影がはっきり見えてきた。月を隠していた雲が流れて月の明かりが周りを照らし出したから。
「ご、ごめん!」
こちらを向いているのが敦賀さんだとはっきり解る明るさになった時、敦賀さんは慌てて向こうを向いた。
「見てないから、見えてないから安心してっ!」
私を安心させようと必死にいい募る敦賀さんのその言葉が逆に私のパニックを煽る。
「す、すいません。せっかくくつろいでらっしゃったのに、私なんかがお邪魔してしまって…。あの、私出ますから!」
「いや、俺が出るからっ!最上さんはゆっくり温もってっ!」
「いえ、先輩にそんな事させられませんっ!」
「いや、女の子を追い出すなんてできないよっ!君はここにいて疲れを流してっ!」
そういうと湯船なかを男性用の脱衣所に向かう敦賀さんが立てる水音が聞こえる。
「まっ!待ってくださいっ!」
「えっ?」
敦賀さんが止まった。でも、こちらを見る事はなく、私の次の言葉を待っている。
「月が…」
「えっ?月?」
「はい。月が綺麗ですから…」
「えっ?」
敦賀さんは私の言葉に空を眺めた。
「本当だ。雨上がりならではの大きな月、星も見えるね?」
「よければ一緒に…」
「いいの?」
「月が…綺麗ですから…」
「…うん」
敦賀はんは少し私の方に戻ってきて、岩に凭れる形で座った。私もそこにあった岩に凭れた。お互いが岩を挟んで背中合わせに座っているような状態。
「夕方はありがとうございました。雷が怖くて。」
「役に立てたなら嬉しいよ。」
「いつも敦賀さんになにかしていただくばかりで…」
「俺は君にいつも救われてるんだ。お互い様だよ。」
「そんな…。」
「おぉい、蓮。逆上せてないか?ちょっと明日のスケジュールの打ち合わせしたいんだけど?」
少し遠くから社さんの声が聞こえた。
「あ、はい、大丈夫です。すぐ上がりますから部屋で待ってていただけますか?」
「解った。悪いな。」
「いえ、急いでいきます。」
社さんは「後で」と言い残して風呂場を出ていった。敦賀さんはふぅっと息をふいて、「最上さん、素敵なお月見をありがとう。逆上せない内にあがるんだよ? 」と少し笑いながらおっしゃった。
「はい、もう私もあがります。あしたもまたよろしくお願いいたします。」
敦賀さんが見ていないことは解っていても頭を下げてしまう。
「クスクス、こちらこそよろしくね。それじゃおやすみ。」
「はい、おやすみなさい!」
背中ごしに敦賀さんが風呂場から出ていったのを感じた。一人になって少しの寂しさを感じた。でも、敦賀さんは決して嫌がる態度じゃなかったわよね。それも敦賀さんの演技力で解らなかっただけなのかしら?
夕方の雨と夜の月のおかげで、大好きな敦賀さんを誰よりも近くで感じることができた今日。敦賀さんが出ていった後に、1日の出来事を反芻して逆上せてしまった事は私だけのひみつだ。
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ロケバスはスムーズにホテルに滑り込み、みなそれぞれ宛がわれた部屋に入った。私は共演者の百瀬さんと同室。ダークムーン以来久しぶりの百瀬さんとの共演はすごく嬉しい。しかも同室なんて幸せだ。
宴会場でご飯を食べて、翌日の集合時間までは自由時間となった。百瀬さんはホテル内にあるジムで運動してくると言い残して部屋を出ていった。私はさっき中居さんから聞いていた露天風呂に行くことにした。さすがに夕方近くのあの雨は体を冷やしていたみたいでなんとなく体が気だるかったから、のんびりお湯に浸かって体をほぐそうと思った。
露天風呂なんて京都のショータローの実家にいた頃使わせていただいて以来入ってなかったから、ウキウキしながら廊下を進んだ。そして、大きく『女湯』と書かれたのれんをくぐって脱衣場へ。この時期繁忙期ではないのでこのホテルに泊まっているのは私達の団体だけだと聞いていたのでゆったりした気持ちで露天風呂に向かった。
風呂場は湯気がこもっていてなんとも風情を感じる。かけ湯をして体を沈めると、じんわり体に染み渡るお湯が疲れを取り去ってくれる感覚になる。「ん~」とゆっくりのびをして息をはく。「極楽極楽…」
思いの外奥行きのある露天風呂。奥の方まで進んでいくと少し遠いところに人の気配を感じた。(あら、先客がいたのね。だれだろう。百瀬さんはジムだし、スタッフさんかな?)
私はこのクルーの中ではまだまだ新参者なので、こちらから挨拶させていただくのが礼儀。
「お疲れ様です。」
軽く声をかけたら相手が息を飲むような気配を感じた。おどろかせちゃったのかな。
「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったんですけど、びっくりさせちゃいましたか?」
少しの間があって
「…最上さん?」
(えっ?この声は敦賀さん?なんで?)
私は耳障りのいいテノールに半ばパニックになりかける。
「つ、つ、敦賀さん?なんでここに?ここは女湯ですよね?」
「いやあの、俺は、ちゃんと男湯に…」
「私はちゃんと…女湯…に」
「「…」」
「あっ!」
「えっ?」
「ここのお風呂、脱衣場だけ別で中は混浴になってるんですね?」
「そ…なの?」
その時、いままではっきり見えなかった人影がはっきり見えてきた。月を隠していた雲が流れて月の明かりが周りを照らし出したから。
「ご、ごめん!」
こちらを向いているのが敦賀さんだとはっきり解る明るさになった時、敦賀さんは慌てて向こうを向いた。
「見てないから、見えてないから安心してっ!」
私を安心させようと必死にいい募る敦賀さんのその言葉が逆に私のパニックを煽る。
「す、すいません。せっかくくつろいでらっしゃったのに、私なんかがお邪魔してしまって…。あの、私出ますから!」
「いや、俺が出るからっ!最上さんはゆっくり温もってっ!」
「いえ、先輩にそんな事させられませんっ!」
「いや、女の子を追い出すなんてできないよっ!君はここにいて疲れを流してっ!」
そういうと湯船なかを男性用の脱衣所に向かう敦賀さんが立てる水音が聞こえる。
「まっ!待ってくださいっ!」
「えっ?」
敦賀さんが止まった。でも、こちらを見る事はなく、私の次の言葉を待っている。
「月が…」
「えっ?月?」
「はい。月が綺麗ですから…」
「えっ?」
敦賀さんは私の言葉に空を眺めた。
「本当だ。雨上がりならではの大きな月、星も見えるね?」
「よければ一緒に…」
「いいの?」
「月が…綺麗ですから…」
「…うん」
敦賀はんは少し私の方に戻ってきて、岩に凭れる形で座った。私もそこにあった岩に凭れた。お互いが岩を挟んで背中合わせに座っているような状態。
「夕方はありがとうございました。雷が怖くて。」
「役に立てたなら嬉しいよ。」
「いつも敦賀さんになにかしていただくばかりで…」
「俺は君にいつも救われてるんだ。お互い様だよ。」
「そんな…。」
「おぉい、蓮。逆上せてないか?ちょっと明日のスケジュールの打ち合わせしたいんだけど?」
少し遠くから社さんの声が聞こえた。
「あ、はい、大丈夫です。すぐ上がりますから部屋で待ってていただけますか?」
「解った。悪いな。」
「いえ、急いでいきます。」
社さんは「後で」と言い残して風呂場を出ていった。敦賀さんはふぅっと息をふいて、「最上さん、素敵なお月見をありがとう。逆上せない内にあがるんだよ? 」と少し笑いながらおっしゃった。
「はい、もう私もあがります。あしたもまたよろしくお願いいたします。」
敦賀さんが見ていないことは解っていても頭を下げてしまう。
「クスクス、こちらこそよろしくね。それじゃおやすみ。」
「はい、おやすみなさい!」
背中ごしに敦賀さんが風呂場から出ていったのを感じた。一人になって少しの寂しさを感じた。でも、敦賀さんは決して嫌がる態度じゃなかったわよね。それも敦賀さんの演技力で解らなかっただけなのかしら?
夕方の雨と夜の月のおかげで、大好きな敦賀さんを誰よりも近くで感じることができた今日。敦賀さんが出ていった後に、1日の出来事を反芻して逆上せてしまった事は私だけのひみつだ。