何となく夕方の曇り空を見ていて思いついたお話です。珍しく前後2話で終わります。
☆☆☆☆☆☆
ふぅ、凄い雨だったなぁ。撮影終わってほっとしたすぐあとに真っ暗になって、雷まで鳴り出したんだもの。私、雷苦手だから本当に怖かった。でも、敦賀さんがいて下さって本当に良かった。雨宿りに入ったテントで私を雨から庇うように立っていて下さって、ピカッて光る度に背中に顔埋めちゃっても何もおっしゃらなかった。大きな音に怯えてジャケットを掴んでもそのまま動かずにいて下さった。
少しして雷の音が遠ざかっても敦賀さんはまだ動かずにいてくださって、雨足が 弱くなって落ち着くまでそうしてくださっていた。
私は必死に敦賀さんのジャケットにすがり付いていて、どのくらい時間が経っていたのかよく解らない。
「もう大丈夫みたいだよ?」
敦賀さんの穏やかで耳障りのいいテノールがジャケット越しに直接頭に響いてきた。私ははっとして上を見上げた。すると私を振り返って見下ろしている敦賀さんと視線がぶつかった。
敦賀さんは柔らかい笑顔をくれて、私はその笑顔にあてられて、顔が赤くなっていくのが自分でも解るくらいに熱が頬に集まってしまった。あまりに恥ずかしくて俯いてしまった私に、敦賀さんはクスッと笑った。
私は握りしめてしまっていたジャケットから手を離して項垂れてしまった。
敦賀さんはそんな私の方に向き直って頭をぽんぽんと撫でてくださって、着ていたジャケットを脱いで私の頭から被せておっしゃった。
「あっちのロケバスまで走ろうか?」
掌をかるく握って立てた親指で敦賀さんが示す方を見ると、共演者やスタッフの皆さんがロケバスに乗り込んでいらっしゃるところだった。
「あ、あの、私ったらごめんなさいっ!」
頭を下げようとする私のおでこに敦賀さんが手を当てて止められた。改めて周りを見ると、もうすっかり片付けも終わってしまって、残っているのは敦賀さんと私だけ。
(うわぁ、どうしよう、やっちゃったよぉっ!)
心の中では大絶叫しているけれど、さすがにここで大声をだせるべくもなく、また俯いてしまった。
敦賀さんはそんな私の肩を抱き寄せて、「走れる?」とおっしゃった。私は条件反射で「あ、はいっ!」と返事をしてしまった。
「それじゃあ行こうか。」とおっしゃるやいなや、それまでよりも強く私の肩を抱いてロケバスに向かって走り出した。
走りはじめてすぐに被せていただいたジャケットにぱらぱらと雨が当たる音がした。敦賀さんがは小降りっておっしゃってたけど、まだ結構雨足が強かったんだ。あっ、敦賀さんがびしょ濡れじゃないっ!どうしよう…。
そんな事を思っている内にロケバスに走りついた私達はタオルを持ってきてくれた社さんに迎えられた。
「さぁ、これで体を拭いて、冷やさないようにね。」
事も無げに優しく話しかけてくれる社さんの言葉も嬉しいけど申し訳なくてまた気持ちが沈んでしまった。
敦賀さんは二人分のタオルを受けとると私の頭に被せていたジャケットをとって社さんに渡して、ジャケットの代わりにタオルを頭に被せてくださった。そして、徐にわしゃわしゃと私の髪をかき回し始めた。
「きゃっ!つ、敦賀さん、止めてくださいっ!」
「なんで?早く拭かないと風邪引いちゃうよ?」
「じ、自分でできますからっ!それに敦賀さんの方がたくさん濡れてらっしゃるじゃありませんか!」
「俺?俺は日頃から体を鍛えてるから大丈夫(笑)」
「そんな事言って、いつぞやのように倒れちゃっても知りませんよっ!」
「そのときはまた君が看病してくれるから大丈夫だよね?」
「そ、それはその…。あの時は社さんの代わりにお世話させていただいてたからで…、そんな状況でもないのにでしゃばったりできないでしょ?」
「なら゛ラブミー部への正式な依頼として頼むから、やっぱり大丈夫だよ。」
「なんですか、その大丈夫をアピールするための屁理屈はっ!」
「いや、なの?」
「いや…じゃない…ですけど…、それは大丈夫とは言いませんっ!」
そこで社さんの咳払いが聞こえた。私ははっとして社さんに視線をむけたけど、社さんの視線を追いかけて背筋が寒くなってしまった。ロケバスに居合わせた皆さんがこちらに注目していたから。私のぎょっとした顔を見て敦賀さんが面白そうに笑う。
「ほら、先輩の親切を拒むから皆さんが避難の眼差しで見ているじゃないか。君ははっきり言ってバカだろう。」
「…すみません。」
私は立場を弁えずにずけずけと敦賀さんに意見していたことを素直に謝った。すると敦賀さんはタオルを乗せたままの私の頭をまたぽんぽんと撫でて、「ほら、奥に行って拭いておいで。」と私の両肩を掴んで私の体をくるりとロケバスの奥の方に向けて軽く押してくださった。
「はい、ありがとうございます」
小さな声でそう答えるのが精一杯だった。
私が奥に進むと敦賀さんの周りには女性陣が取り囲んで、身体中びしょ濡れだとか、着替えを手伝うとか色々と言っていたけど、「ありがとう。皆さんが濡れちゃうと申し訳ないし、大丈夫ですから」と敦賀さんがやんわりと断っているのが聞こえた。そんな敦賀さんの対応にほっとしている自分がちょっと浅ましいと思ってしまった。
ロケバスはそんな私達を乗せて、今夜1日宿泊するホテルに向かった。
☆☆☆☆☆☆
ふぅ、凄い雨だったなぁ。撮影終わってほっとしたすぐあとに真っ暗になって、雷まで鳴り出したんだもの。私、雷苦手だから本当に怖かった。でも、敦賀さんがいて下さって本当に良かった。雨宿りに入ったテントで私を雨から庇うように立っていて下さって、ピカッて光る度に背中に顔埋めちゃっても何もおっしゃらなかった。大きな音に怯えてジャケットを掴んでもそのまま動かずにいて下さった。
少しして雷の音が遠ざかっても敦賀さんはまだ動かずにいてくださって、雨足が 弱くなって落ち着くまでそうしてくださっていた。
私は必死に敦賀さんのジャケットにすがり付いていて、どのくらい時間が経っていたのかよく解らない。
「もう大丈夫みたいだよ?」
敦賀さんの穏やかで耳障りのいいテノールがジャケット越しに直接頭に響いてきた。私ははっとして上を見上げた。すると私を振り返って見下ろしている敦賀さんと視線がぶつかった。
敦賀さんは柔らかい笑顔をくれて、私はその笑顔にあてられて、顔が赤くなっていくのが自分でも解るくらいに熱が頬に集まってしまった。あまりに恥ずかしくて俯いてしまった私に、敦賀さんはクスッと笑った。
私は握りしめてしまっていたジャケットから手を離して項垂れてしまった。
敦賀さんはそんな私の方に向き直って頭をぽんぽんと撫でてくださって、着ていたジャケットを脱いで私の頭から被せておっしゃった。
「あっちのロケバスまで走ろうか?」
掌をかるく握って立てた親指で敦賀さんが示す方を見ると、共演者やスタッフの皆さんがロケバスに乗り込んでいらっしゃるところだった。
「あ、あの、私ったらごめんなさいっ!」
頭を下げようとする私のおでこに敦賀さんが手を当てて止められた。改めて周りを見ると、もうすっかり片付けも終わってしまって、残っているのは敦賀さんと私だけ。
(うわぁ、どうしよう、やっちゃったよぉっ!)
心の中では大絶叫しているけれど、さすがにここで大声をだせるべくもなく、また俯いてしまった。
敦賀さんはそんな私の肩を抱き寄せて、「走れる?」とおっしゃった。私は条件反射で「あ、はいっ!」と返事をしてしまった。
「それじゃあ行こうか。」とおっしゃるやいなや、それまでよりも強く私の肩を抱いてロケバスに向かって走り出した。
走りはじめてすぐに被せていただいたジャケットにぱらぱらと雨が当たる音がした。敦賀さんがは小降りっておっしゃってたけど、まだ結構雨足が強かったんだ。あっ、敦賀さんがびしょ濡れじゃないっ!どうしよう…。
そんな事を思っている内にロケバスに走りついた私達はタオルを持ってきてくれた社さんに迎えられた。
「さぁ、これで体を拭いて、冷やさないようにね。」
事も無げに優しく話しかけてくれる社さんの言葉も嬉しいけど申し訳なくてまた気持ちが沈んでしまった。
敦賀さんは二人分のタオルを受けとると私の頭に被せていたジャケットをとって社さんに渡して、ジャケットの代わりにタオルを頭に被せてくださった。そして、徐にわしゃわしゃと私の髪をかき回し始めた。
「きゃっ!つ、敦賀さん、止めてくださいっ!」
「なんで?早く拭かないと風邪引いちゃうよ?」
「じ、自分でできますからっ!それに敦賀さんの方がたくさん濡れてらっしゃるじゃありませんか!」
「俺?俺は日頃から体を鍛えてるから大丈夫(笑)」
「そんな事言って、いつぞやのように倒れちゃっても知りませんよっ!」
「そのときはまた君が看病してくれるから大丈夫だよね?」
「そ、それはその…。あの時は社さんの代わりにお世話させていただいてたからで…、そんな状況でもないのにでしゃばったりできないでしょ?」
「なら゛ラブミー部への正式な依頼として頼むから、やっぱり大丈夫だよ。」
「なんですか、その大丈夫をアピールするための屁理屈はっ!」
「いや、なの?」
「いや…じゃない…ですけど…、それは大丈夫とは言いませんっ!」
そこで社さんの咳払いが聞こえた。私ははっとして社さんに視線をむけたけど、社さんの視線を追いかけて背筋が寒くなってしまった。ロケバスに居合わせた皆さんがこちらに注目していたから。私のぎょっとした顔を見て敦賀さんが面白そうに笑う。
「ほら、先輩の親切を拒むから皆さんが避難の眼差しで見ているじゃないか。君ははっきり言ってバカだろう。」
「…すみません。」
私は立場を弁えずにずけずけと敦賀さんに意見していたことを素直に謝った。すると敦賀さんはタオルを乗せたままの私の頭をまたぽんぽんと撫でて、「ほら、奥に行って拭いておいで。」と私の両肩を掴んで私の体をくるりとロケバスの奥の方に向けて軽く押してくださった。
「はい、ありがとうございます」
小さな声でそう答えるのが精一杯だった。
私が奥に進むと敦賀さんの周りには女性陣が取り囲んで、身体中びしょ濡れだとか、着替えを手伝うとか色々と言っていたけど、「ありがとう。皆さんが濡れちゃうと申し訳ないし、大丈夫ですから」と敦賀さんがやんわりと断っているのが聞こえた。そんな敦賀さんの対応にほっとしている自分がちょっと浅ましいと思ってしまった。
ロケバスはそんな私達を乗せて、今夜1日宿泊するホテルに向かった。