サイドキョーコ

敦賀さんはと別行動をとることが増えてきた。何時までも敦賀さんはに頼ってばかりもいられないからきっとこれはいい事なんだと思う。セバスチャンは変わらずにマネージャーについてくださるし、一緒に動ける時には敦賀さんは達と一緒に移動するから、独りぼっちになってしまった訳じゃない。


敦賀さんは流石に芸能界のトップに君臨している人なので、あっという間にスケジュールはびっしり埋まって行った。社さんの配慮で少しずつセーブはしているらしいけれど、殺人的なスケジュールはだと思う。何とか晩御飯だけは私と一緒に食べさせたいと、社さんの尽力で敦賀さんはの仕事がてっぺんを越えることはない。

私は、記憶を失う前には料理も色々とやっていたらしく、資料の中にあった私の直筆だというレシピ本を見ながら料理に取り組むようになった、大将にいただいた包丁はしっくり手に馴染んだ。キッチンはどんどん私の使い勝手のいい環境になっていった。このゲストハウスに『最上キョーコ』がいる実績を積み上げるように、私はスケジュールのゆとりを利用して家事に勤しんだ。

記憶を取り戻すと決めてつけていただいたカウンセラーさんに教わった。無理に思い出そうとせず、今の環境に慣れること。自分の中にある記憶を無理矢理引き出すのではなく、出てきやすくすることが大事なのだそうだ。日々の習慣や癖など、残っているものがあれば出来るだけ素直に受け入れられるようにゆとりを持つことをも教わった。

料理や家事をしていると確かに落ち着く感じがする。何気なく畳む洗濯物等も意識せずに同じ形や大きさに積み上がっていく。以前からこうしていたんだと思うとなんとなくくすぐったい。芸能界という特集な環境に身をおきながらこんな穏やかに流れる時間を持てる私はかなり贅沢なのだろう。それもこれも私を支えてくれる皆さんのおかげ。そんな皆さんの為にも私自身の為にも早く記憶が戻って欲しいと願ってしまう。『京子』としてお仕事をさせていただいて、キョーコを探す私。きっとうまく行く、そう信じて進んでいこう。敦賀さんはと過ごせる時間が少しずつ少なくなって寂しいけれど、こうして帰りを待つ事さえ楽しく感じられるから。