を差し込んだストローからゆっくりお水を飲んで、「これ、美味しいよ。」と言ってくれる敦賀さん。痛くて堪らないはずなのに、こういう時まで気遣いを忘れない素敵な紳士。
「ありがとうございます。」
私は、この人のためにもっとできることはないのかしら。自分の無力さを嘆く。
「もう遅い時間だろう?帰らなくていいのかい?」
「今夜はここでお泊まりです。社長の許可もいただきましたし、大将と女将さんにも連絡済みです。」
敦賀さんは私の言葉を聞いて、また眠りについた。どうして自分が大変な時にまでそんなに気を使ってしまうのだろう。もっと自分の事だけ考えてもいいのではないのかしら?

「敦賀さん、痛みますか?」
「うん、少し…」実際はかなり痛むのだろうけれど、この人は決してそうは言わない。
「痛み止め使える時間になりましたから看護師さんに言いますね。」とナースコールを押す。看護師さん側も今日の状況を解っているのですぐに痛み止めの点滴を持って来てくれた。ついでに抗生物質の時間ですからと袋を二つ吊り下げて行った。これで一安心かな…。それでも心配で敦賀さんの顔を覗き込んでいると優しく微笑まれてしまった。『えっなにっ!今の神々スマイルはっ!』頭の中で少しパニックを起こしながらなるべく平静を装うけどかなり無理がある。
「無理しないでくださいね。」と言った言葉は少し口調が強くなりすぎたかもしれない。頬に熱が集まるのを誤魔化すにはそうするしか思い付かなかったんだもの…。
「そ、そうだ、お水のみますか?」と慌てて視線を逸らしてしまった。何だかこの部屋、急に暑いんですけど!
「いただくよ」と言われて口にストローを差し込む。口の端から少し溢れてしまったお水をタオルで拭って「この部屋、空調が整っているから乾燥しますからね。」と冷したタオルでまた口許を拭ってみる。タオル越しとはいえ、敦賀さんの顔に触れていると思うとドキドキする。しかも、手術の後の大変な時とはいえ、二人っきりで一夜を過ごしてしまうのだ、事務所公認で!
今更ながら事の重大さに驚くばかりの私…。
いやいや、だって私はラブミー部!ラブミー部だからこそ受けた依頼なのよっ!
だからね、私は、頑張って仕事を全うする責任と義務があるのよっ!
敦賀さんのなかなか見られない弱った姿にときめいている場合じゃないのよっ!敦賀さんの寝顔に見惚れてる場合じゃないのよっ!
しっかりしなさい、キョーコ!!