敦賀さんはオペ室で病室ベッドに移されて、用意されていた個室にそのまま搬送された。オペ室前で待っていた私達も一緒に部屋に向かった。部屋に入ると看護師さん達が手際よく心電図や血圧計、血栓予防だというポンプを取り付け、点滴がちゃんと落ちている事を確認していた。そんな作業をぼんやり眺めながら『最近は点滴用の支柱は天井から吊り下げるんだ』などと変なところに関心してしまった。
麻酔が醒めるまでに15分ほどかかるとの事だった。それと、仕事柄あまり体に傷を付けられないので極力お臍の辺りの傷一つで済ませるつもりだったが、かなり炎症が激しかった為にもう一つだけ小さな穴を開けざるを得なかった旨を説明された。そして取り出した虫垂を見せてもらった。
「でっかいなぁ…」
「本当に。親指くらいの大きさがあるなぁ」
「この炎症具合だと相当痛かったと思われます。ギリギリまで我慢されたんですね。腹膜炎を併発しなくて本当によかった。」と主治医の先生のコメントは小さなため息と共にはっせられた。

ベッドに横たわる敦賀さんはとても痛々しい。顔からは血の気が退いて本当に生きているのか疑いたくなった。酸素マスクが定期的に曇るのが息を吐いている証拠、ピッピッと心電図も規則正しくリズムを刻んでいる。だが、まだ信用できない私がいた。

「敦賀さん!」主治医が呼びかける。私は慌てて敦賀さんの顔の傍に寄って呼びかける。「敦賀さん…」
閉じられた瞼、長く伸びる睫毛、スッと通る鼻筋、薄く引き締まった唇…、こんな時でもこの人はやはり美しい。本当に綺麗な人。

「敦賀さん、解りますか?目を開けてください!」
「はい」とくぐもった返事が返ってきて、部屋に走っていた緊張が一気に溶けた。
閉じられていた瞼がピクピクと震えて、ゆっくりと持ち上げられる。私は心配で敦賀さんの顔を覗き込んでしまっていた。
敦賀さんが目だけであちこち確認して、私を見て視線を止めた。
「あれ?俺の…いったい…?」
「スタジオで倒れられたんです。体調悪いならもっと早くおっしゃって下さればよかったのに…」
「ごめん、心配させたね?」
「いえ、それはいいんですが…。」
私は上手く言葉が出なくて黙ってしまった。
「俺、どうしたの?」
「蓮、急性虫垂炎だそうだよ。痛いのかなり我慢してただろう。もう少し遅かったらかなり危なかったらしいぞ。」
社さんの声が後ろから聞こえた。敦賀さんは驚いた顔をした。