「あ、キョーコちゃん!あのね、蓮が、蓮が大変なんだよ!すぐ来てっ!」
と謎のメッセージだけ残して社さんからの電話はきれてしまった。その切迫した雰囲気に放置することも出来ずに椹主任に電話をすると確かに敦賀さんの一大事だった。私はとりあえずカバンにバスタオル、ハンドタオル、割り箸、スプーン、ストロー、ティッシュボックスを入れてだるま屋の階段を駆け降りた。大将と女将さんが声をかけてくれたので事情を説明する。
「敦賀さんが急性盲腸で運ばれて…、私、行きます。」
大将は仏頂面のまま「待て」という。焦ってるのになんで「まて」なのかしら?と顔に書いてあったのだろう。女将さんが私を椅子に座らせて「落ち着きなよ。」と言ってくれた。
「もう病院だろ?なら手術が終わるころにまにあやいぃんだよ。」と仏頂面のままの大将。言われてみればそうなんだけれど、なぜ大将はそんなに冷たいのかしら?
「キョーコちゃん、あんた自分の着替えとか持ったかい?」と女将さんに言われてハッとする。「ほら、取りにいっといで。」とまた二階に押し戻された。仕方なく部屋に入って明日のスケジュールを確認する。そして必要な物をカバンに入れて階段を降りると、「用意はできたか?」と大将の声。
女将さんが風呂敷包みを持たせてくれた。
「これ、持っていいってやんな。役に立つからさ。」
「タクシー来たぞ。早く乗れ。」
「えっ、私、電車で…」
「ばか野郎!こんな時間にそんな荷物持って歩いて行くんじゃねえよ。」
「運転手さん、よろしく頼んだよ。」と女将さんがタクシーの運転手さんに料金を渡してくれた。
「かしこまりました。しっかり安全にお届けします。」
そういうと運転手さんは車を走らせた。

目的の病院には15分程でついた。たくさんの荷物を持って現れた私に社さんは驚いていたけど、一緒にいた松島主任と一緒に荷物を敦賀さんの部屋まで運んでくれた。

大将からの包みを開けるとこじんまりとした折り詰めが三つ。女将さんの几帳面な字で『看病も体力勝負だからね』とかかれたメモにちょっと涙が浮かんだ。敦賀さんはオペ室に入ったばかりと聞いて、今の内に軽く食べてくださいと社さんと松島主任に折り詰めを手渡す。最初は遠慮して食べようとしなかった社さんも私と松島主任が食べ始めた折り詰めを見て、空腹には勝てずに少しずつ食べ始めた。
社さんが食べ終わって少ししてオペ室の『手術中』のライトが消えた。