side キョーコ

えっ?えぇっ!!
今、この人は何て言ったの?

『俺と君の一組だけがよかったんだ。』

なんなの一体っ!
これじゃまるで告白じゃないっ!
ななよこれ?!
新手の居やがらせかしら?
しかも、こんな嫌がらせなんて『敦賀蓮』じゃなきゃ出来ない神業よっ!

私は敦賀さんから発せられた想定外の言葉に動揺しまくっている。どんどん思考の小部屋に堕ちていきそうだった私は、ちらっと盗み見た敦賀さんの横顔が、流れていく街の明かりに照らされるその顔が、薄暗い社内でも解るくらいに赤くなっている事に気付いてまた動揺を煽られて島った。

なによその顔っ!
恋愛百戦錬磨な顔なのに今の敦賀さんったら思春期の男の子みたいじゃないっ!
そんな表情反則よっ!!

「あの…、つるが、さん?」
「…えっ、なに?」
「軽々しくそんな事を言っちゃいけませんよ。私だからいいですけど、他の世のご婦人方が聞いたら完璧に勘違いされますから…。」
はぁ、自分で言ってて悲しくなってきちゃうわ。こんな地味で色気のない女、誰からも、ましてや敦賀さん程の人に思われるはずないんだからっ!それに、私はもう恋なんてしないと決めた。だからこれは勘違い。勘違いって事にして流せばいいのよっ!
そしたら、変に期待して落ち込む事も、捨てられて憎しみを燃やす事もないんだからっ!

「最上さんは、勘違いしてくれないの?」
敦賀さんは前を向いたままでそう呟く。この台詞、さっきお店で聞いた時より声が小さくて…

「これ、さっきも聞いたね。俺、なんだか情けないな。」
「えっ?」
「『勘違い』してくれないかな?」
「えっ?」
「他の誰に『勘違い』されても困るけど、君の『勘違い』なら大歓迎だよ。」
「私はラブミー部ですよ。『勘違い』とか『愚行』とは縁もゆかりもない人種。無理ムリ、むりですっ!」
「そんな全力で否定しなくても…」
「だって…」
「ん?」
「私は…、あんな空っぽな自分に戻りたくないんです…。」
「えっ?」
「やっと作り始めた『最上キョーコ』を失いたくないんです。」
「…あぁ。」
「だから、だから…」
キョーコの目に涙が浮かぶ。

蓮は車を道路の端に寄せて止め、キョーコの方に向き直った。

「一方通行じゃないよ?」
「…っ!」

蓮はキョーコの目に貯まって涙を人差し指の甲で拭ってやる。
「君の事が好きで仕方ない俺の気持ちを受け入れてほしいんだ。」