「最初はね、ほんの遊び心だったんだよ。」

キョーコの「どうしてiPoneケースだったんですか?」という質問に蓮はポツリぽつりと話を始めた。

「携帯と違って全部剥き出しだから持ち歩くのにちょっと怖いかなって思ってたんだ。」
「あ、私も思いました。だからいつも鞄の中に…。」
「うん。それでたまたま背中がバインダーになっている物をみつけて使ってみた。そしたら意外と使い勝手がいいんだよ。」「そうなんですかっ!」
「だから、最上さんにもどうかと思ってたんだ。」
「えっ?私ですか?」

車は渋滞もなくスムーズに走っている。蓮は話をしながら、首都高をぐるっとまわるのもいいかもと考えながら車を走らせていた。今はこんなのんびりした会話が凄く楽しい。

「それでね、たまたま立ち寄ったブランドショップで、背中がカードケースになっているものを見つけたんだ。」
「あ、今回のもそうですよね?」
「うん。結構いいなぁって眺めていたら、社さんに『アルマンディの専属モデルが他のブランドは持てないだろう?』って言うから我に帰ったよ。」
『…、確かに。』
「そこでジョンが登場するんだ。こんなのが欲しいって伝えたらついでだから商品化って流れになって…」
「さすが敦賀さんですね。自分の欲しいものが商品化しちゃうんだ…。」
キョーコは自分と蓮のたち位置の違いを目の当たりにした気分になって俯いてしまった。
「便利そうだなぁって思ったんだ。最近は色んなICカードが多用されるからね。それに、液晶面がカバーされてないのはやっぱり怖くて、薄いアクリル坂とかならフィルムと違ってお手軽だから…。」
そこまで話して蓮は俯いたままのキョーコに気付いた。
「最上さん、どうしたの?」
「いえ、なんだか敦賀さんって凄いんだなぁって改めて思ってしまって…。」
「そう?たまたまだよ、」
「いえ、ほしいと思ったのが敦賀さんじゃなかったら、こんな企画にはならなかったでしょうし?」
「どうかな?俺はラッキーだったんだと思うよ?」
「ラッキーなんかじゃなくて、実力です。」
「だと嬉しい…かな?」
「あんまり嬉しくないみたいな言い方ですね?」
「…うん。出来れば…」
「はい?」
「商品化された1万組は無い方がよかった…」
「はい?」
「商品化なんてならない方がよかったんだよ。」
「なんでそんな事を?」
「俺と君の一組だけがよかったんだ。」
車は走り続けていた。