ズキューン!!

キョーコの胸に何かが刺さった。俯いたままでくっと奥歯を噛み締める。
今、目の前のこの人はいったい何を言ったのだろう…。

勘違いなんてしていい訳がない。勘違いほど愚かで虚しいものはない。それ以前に自分はもう恋などしないのだから…。

そう思うとなぜだか目頭が熱くなるのを感じた。(なんで?なんで悲しくなるのよ、私っ)

再び二人の間に落ちる沈黙。それを破ったのはノックの音だった。

「どうぞ。」と蓮が応えると、ワゴンに料理を乗せて店員が入ってきた。
ホクホクと湯気を立てる料理をテーブルに並べて、「ごゆっくりお過ごしくださいませ。」と店員は一礼をして部屋を後にした。そしてさっきまで俯いていたキョーコは目の前にある大好物に笑顔を取り戻す。
「さぁ、いただこうか?」
「はい、いただきます。」

早速一口ハンバーグを口に入れて、キョーコは顔が蕩けるくらいに幸せを感じた。「おいしぃっ!」とうっとりする顔に蓮も顔が緩む。
「喜んでもらえてよかったよ。」
「はい、凄く美味しいです、ハンバーグ大好きっ!」

蓮も少しずつ食べ始める。さっき、かなり頑張ってアピールをしたのにキョーコには伝わらなかったので蓮はかなり凹んでいた。だが、キョーコのこんな表情を独占出来る今の自分は幸せだと思う。今はまだハンバーグには勝てそうにない。『敦賀蓮』のネームバリューもステータスもこの少女の前では何の効力も持たない事は解っている。今はこの特別な時間を大事にしようと蓮は頭を切り替えた。

二人は食事をしながら他愛のない会話を交わした。空腹が満たされて二人の纏う空気も穏やかになり、さっきの気まずさも亡くなった。キョーコは奏江と買い物に出かけた話やだるま屋での出来事を話し、蓮は楽しそうに相槌をうつ。

食事も終わり、食後のコーヒーを飲みながら蓮が尋ねた。
「そろそろ送ろうか?」
「…、はい。」
いつもと違って歯切れの悪いキョーコの返事に蓮は不思議に思って尋ねた。
「どうかした?」
「いえ、なんとなく、もうちょっと…。」
「うん、まだ時間早いしね?」
「あ、でも、敦賀さん、明日も忙しいんですよね?私ごときが敦賀さんの貴重な時間を無駄遣いするわけには…「かまわないよ。」えっ?」
「かまわないよ、いや、むしろ使ってほしい、かな?」

店を出て車に乗り込むと蓮はゆっくり車を滑らせた。目的地は決まっていない。