このお話は『お昼休みの出来事』の続編になります。よければそちらからお読みください。

俺はあれからiPoneと最上さんに渡すつもりのケースをずっと持ち歩いている。最近では仕事で一緒になる事が殆どなくて、最上さんも段々と忙しい身になった事もあって全然会えない日が続いているから、彼女への想いを募らせる時間だけはたっぷりある。

そんな中、車で移動中信号待ちで停まった時にとあるブランドの専門店の前でiPoneケースが幾つか置かれているのが目についた。助手席に座る社さんが俺の視線を辿ってそのショップに目を向けてぼそっと呟く。「このブランド、最近日本のキャラクターがお気に入りみたいでさ、色々とコラボしてるよなぁ。日本一有名な我が儘な雌猫とか、黄色い鼠とか…。そういうの、俺も嫌いじゃないけどね。」
そう言えばたまにパラパラ捲るファッション雑誌にそんな記事を見かけた事があるな。キャラクターコラボは今が旬なのだろうか。
「ははぁん、お前iPoneケースが気になるのか。まだ時間あるし、ここからなら駐車場にもすんなり行けそうだから寄って行こうか?」と社さんの悪魔の囁き。俺は抗う理由もないので素直に左にウインカーを出した。

入ると広い店内に服やバッグがゆったりと置かれていた。元々大人の雰囲気をイメージできるブランドなだけあって、窮屈さを感じる事はない。俺と社さんは小物が置かれているのが辺りに向かう。小ぶりなキーケースや財布、パスケースなどが並んでいて、どれもこれも落ち着いているがおしゃれなものだ。
iPoneケースもそのエリアのテーブルの上に並べてあって、我が儘な猫も黄色い鼠もブランドの雰囲気を壊すことなくそこにいた。

俺はその中から目についた一つを手にとった。見るからに柔らかそうな質感のボディは革製で、薄いピンクが最上さんをイメージさせる。ケースの下の方に小さく刻印された猫の顔とブランド名は本当に目立たなくて、一生懸命見ないと気付くのは難しいだろう。そこで俺はこのケースがやたらと分厚い事に気付く。よく見るとボディは二重になっている。なんでだろうと考えていると隣から社さんが「へぇ、カードケースになってるんだ、ス○カとかいれておいたら便利そうじゃないか?」とこのケースの正体を明かしてくれた。
「あ、なるほど。ちょうといい大きさだし、確かに便利ですよね?」と関心しながらしげしげと眺めていた。