撮影中****
「私、お見合いするの。」
唐突に投げ掛けられた言葉と今までにない強い視線にみのるは固まる事しか出来なかった。
「だから、一緒に仕事をする事はできないわ。」と続くまゆみの言葉はとても低く抑揚のない響き。
みのるが必死に絞り出せた言葉は「…な、なんで…」という陳腐なものだけだった。
「養父の会社の取引先の社長さんが私の事を気に入ってくださってるらしいの。」まゆみはみのるから視線を外さずに続ける。「その方のご子息とお見合いを勧められているの。」「…、えっ!」みのるにとっては晴天の霹靂。ふられたという話を聞いた時に、上野はそんな事は何も言ってなかったのに…。
「いつ…きめたの?」自分でも驚くほど声がかすれてしまう。まゆみは俯いてテーブルの上のティーカップをじっと見つめて言葉を紡ぐ。
「養父にこの話を聞いたのはつい最近。『考えてくれ』と言われているわ。養父にはまだ『する』とは言ってないけどするつもりよ。」二人の間に重い沈黙が流れる。
「……のか?」「えっ?」まゆみはみのるの言葉が聞き取れずに顔を上げて聞き返す。「その気なのか…君は…」「…ええ。」「…それでいいのか?」「…えぇ。」「それて、それ…で…、君は幸せになれるのかっ!」みのるの掠れた声がまゆみに突き刺さる。『自分の幸せ』と聞かれて困惑する。今までそんな事には頓着してこなかったからだ。
みのるの視線がとても痛く感じてまゆみは身を竦めてしまう。みのるは思わず語気が強くなってしまってはっとする。「ごめん、俺がこんな事言う権利なんてないのに…。」「……。」向かい側で体を縮こまらせてうつむいているまゆみにかけるべき言葉がなかなか見つからない。口を開こうとして息をのみ、小さく息を吐く事を繰り返す。みのるの頭もどんどん下を向いてうなだれてしまう。また重い沈黙が訪れる。
その沈黙を破ったのはまゆみだった。
「今の両親は養父母なの。」「えっ…」
「実の父の顔は知らない。実の母は私を振り返らずに何処かに行ってしまったわ。」「…それは…」
養父母は母の弟夫婦なの。置いていかれた私を実の子供のように育ててくれた。」「うん」「養父が好きだと言ったピアノを習った。お茶やお花も勧められて習った。大学は母の勧め。私が何かで誉められたり賞を貰うと両養親はとても喜んでくれたわ。だから私は…両養親が喜んでくれる事を選んでしてきたの。」まゆみは薄く笑った。
「私、お見合いするの。」
唐突に投げ掛けられた言葉と今までにない強い視線にみのるは固まる事しか出来なかった。
「だから、一緒に仕事をする事はできないわ。」と続くまゆみの言葉はとても低く抑揚のない響き。
みのるが必死に絞り出せた言葉は「…な、なんで…」という陳腐なものだけだった。
「養父の会社の取引先の社長さんが私の事を気に入ってくださってるらしいの。」まゆみはみのるから視線を外さずに続ける。「その方のご子息とお見合いを勧められているの。」「…、えっ!」みのるにとっては晴天の霹靂。ふられたという話を聞いた時に、上野はそんな事は何も言ってなかったのに…。
「いつ…きめたの?」自分でも驚くほど声がかすれてしまう。まゆみは俯いてテーブルの上のティーカップをじっと見つめて言葉を紡ぐ。
「養父にこの話を聞いたのはつい最近。『考えてくれ』と言われているわ。養父にはまだ『する』とは言ってないけどするつもりよ。」二人の間に重い沈黙が流れる。
「……のか?」「えっ?」まゆみはみのるの言葉が聞き取れずに顔を上げて聞き返す。「その気なのか…君は…」「…ええ。」「…それでいいのか?」「…えぇ。」「それて、それ…で…、君は幸せになれるのかっ!」みのるの掠れた声がまゆみに突き刺さる。『自分の幸せ』と聞かれて困惑する。今までそんな事には頓着してこなかったからだ。
みのるの視線がとても痛く感じてまゆみは身を竦めてしまう。みのるは思わず語気が強くなってしまってはっとする。「ごめん、俺がこんな事言う権利なんてないのに…。」「……。」向かい側で体を縮こまらせてうつむいているまゆみにかけるべき言葉がなかなか見つからない。口を開こうとして息をのみ、小さく息を吐く事を繰り返す。みのるの頭もどんどん下を向いてうなだれてしまう。また重い沈黙が訪れる。
その沈黙を破ったのはまゆみだった。
「今の両親は養父母なの。」「えっ…」
「実の父の顔は知らない。実の母は私を振り返らずに何処かに行ってしまったわ。」「…それは…」
養父母は母の弟夫婦なの。置いていかれた私を実の子供のように育ててくれた。」「うん」「養父が好きだと言ったピアノを習った。お茶やお花も勧められて習った。大学は母の勧め。私が何かで誉められたり賞を貰うと両養親はとても喜んでくれたわ。だから私は…両養親が喜んでくれる事を選んでしてきたの。」まゆみは薄く笑った。