撮影中****

唐突な上野の言葉にまゆみの思考は付いて行く事ができない。「えっ?」と返すのがやっと。驚いて目を見開いて見上げた端正な顔にはいつものつかみ所のない柔らかな笑顔はなく、真剣そのものの表情でまゆみを見ていてまた驚いてしまう。
『付き合ってくんないかな?』
その言葉の余韻が二人の間にある。まゆみは今上野に言われた言葉の意味が理解出来ずに瞬きを何度かする。上野はそんなまゆみの様子に目を細めて苦笑をもらす。
「いきなりでごめん。でも、俺、前からまゆみちゃんの事気になってたんだ。」まゆみはまだ動けないままたまに瞬きをする。「容姿は俺の好みだし、賢いのに気位は高くない。可愛い顔で笑うまゆみちゃんにどんどん惹かれてしまうんだ。」「……」まゆみは息もできていない様子だ。
「時々見せる物憂げな表情が凄く綺麗だ。とても儚げで…、消えちゃうんじゃないかって不安になるくらいに…。」
そこまで言って上野は言葉を切った。まゆみは驚いた顔のまま動けないでいる。上野は小さくためいついて苦笑する。立ち上がって両手の指を組んで思いっきりのびをする。「ん~、こういうのはやっぱり俺のキャラには似合わないや。」「えっ?」まゆみはやっと我に帰って上野を見上げる。その視線に上野の視線が絡む。「やっと目が合った。」「えっ!」また固まってしまうまゆみに上野は悪戯っ子のような笑顔を向ける。その笑顔にまゆみは堪えれずに俯いてしまった。「そんな顔しちゃダメだよ。」「…上野…くん?」まゆみはのろのろと視線を上野にむける。「そんな顔をさせたい訳じゃないんだよ。」そういうとまゆみの頭に手を置いて「まゆみちゃんはやっぱり笑っている顔が一番可愛いよ。だから、俺はまゆみちゃんを笑顔にしたいって思ったんだ。いつも笑わせてあげたい、俺なら出来るって、ね。」まゆみの目がじんわりと滲んでくる。「ほらほら、そんな顔は似合わないよ。」「私、私は…」「まゆみちゃんが俺の事を男として見てくれてないのは知ってたんだ。」「えっ?」「まゆみちゃんは最初に会った時からみのるしか見てなかったからね。」「そ、そんな…。」「みのるもまゆみちゃんしか見えてないし…。」「うそ…。」上野はまた小さくため息をついてもう一度ベンチに座り直す。「なのにさ、二人ともまどろっこしいからね?」上野は笑っていた。いつものように人の良さそうな笑顔で。