サイドキョーコ
横浜港は初めてて、海風は潮の香りがして、波に揺られる船はのんびりと気持ち良さそう。こんな海を眺めて育ったまゆみちゃんはどんな事を考えていたんだろう。自分が空っぽだって気付いて相当傷ついたんじゃないのかしら。両養親の気持ちを中心に生きてきて、今回だって養父をがっかりさせた訳じゃないのに沈み込むまゆみちゃん。初めて養親の気持ちと自分が相容れなくなっちゃったんだわ。きっとどうしていいのか解らないはずよ。だって、まゆみちゃんの中には『どうしたいか』すらないんだから。いや違うわ。初めて『そうしたくない』って気持ちが生まれてきて、その気持ちをまだ自分で受け入れる事が出来ないでいるんだわ。曖昧にして見ないふりをするには深刻で大きな問題。そんな切羽詰まった時にひょっこり現れた上野くんがきっと天使に見えたんじゃないかしら?
ハンサムで優しくて陽気な天使。天使というよりはお兄ちゃんみたいな感じよね。無防備に甘えられて頼れる人。それがまゆみちゃんにとっての上野くんなんだわ。上野くんっていい人過ぎるのよね。その人懐っこい笑顔と滑らかな仕草、根っからのフェミニストであくまでまゆみちゃん主体での距離を保つ。多分一緒にいて幸せにしてくれるのはこの上野くんみたいな人なんだろうなぁ。私もこういう人と会って恋をしたら幸せになれるのかしら…。
そこまで考えてふと思考が止まる。今の私、かなり幸せよね。そりゃぁ、不慮の事故で記憶をなくしちゃったけど、周りの皆さんは凄く大事にしてくれる。社長やマリアちゃん、モー子さんに社さん、セバスチャンも。そうよ、別に恋をしなくったって幸せは身近にあるものよ。何故恋人に拘るのよ、キョーコっ!
いつも一緒にいてくれる敦賀さんだって…。なんだか気持ちがざわつく。急に不安に襲われる感覚。自分の思考に自分の心が付いていけない。
ぐるぐると思考の小部屋でうろついていたらポンポンと肩を叩かれる感覚でバッとした。叩かれた感覚の残る右肩を見れば男性のものらしい手が置かれている。その手を辿れば貴島さんの心配そうな顔と出会った。「京子ちゃん、どうしたの?」と聞かれてきょとんと貴島さんを眺めていると「大丈夫かい?」とまた心配そうな表情できかれちゃった。私は出口のない思考の小部屋から出してくれた貴島さんに感謝した。「はい、ありがとうございます!」と笑うと貴島さんから人懐っこい笑顔が帰ってきた。上野くんの笑顔そっくりだった。
横浜港は初めてて、海風は潮の香りがして、波に揺られる船はのんびりと気持ち良さそう。こんな海を眺めて育ったまゆみちゃんはどんな事を考えていたんだろう。自分が空っぽだって気付いて相当傷ついたんじゃないのかしら。両養親の気持ちを中心に生きてきて、今回だって養父をがっかりさせた訳じゃないのに沈み込むまゆみちゃん。初めて養親の気持ちと自分が相容れなくなっちゃったんだわ。きっとどうしていいのか解らないはずよ。だって、まゆみちゃんの中には『どうしたいか』すらないんだから。いや違うわ。初めて『そうしたくない』って気持ちが生まれてきて、その気持ちをまだ自分で受け入れる事が出来ないでいるんだわ。曖昧にして見ないふりをするには深刻で大きな問題。そんな切羽詰まった時にひょっこり現れた上野くんがきっと天使に見えたんじゃないかしら?
ハンサムで優しくて陽気な天使。天使というよりはお兄ちゃんみたいな感じよね。無防備に甘えられて頼れる人。それがまゆみちゃんにとっての上野くんなんだわ。上野くんっていい人過ぎるのよね。その人懐っこい笑顔と滑らかな仕草、根っからのフェミニストであくまでまゆみちゃん主体での距離を保つ。多分一緒にいて幸せにしてくれるのはこの上野くんみたいな人なんだろうなぁ。私もこういう人と会って恋をしたら幸せになれるのかしら…。
そこまで考えてふと思考が止まる。今の私、かなり幸せよね。そりゃぁ、不慮の事故で記憶をなくしちゃったけど、周りの皆さんは凄く大事にしてくれる。社長やマリアちゃん、モー子さんに社さん、セバスチャンも。そうよ、別に恋をしなくったって幸せは身近にあるものよ。何故恋人に拘るのよ、キョーコっ!
いつも一緒にいてくれる敦賀さんだって…。なんだか気持ちがざわつく。急に不安に襲われる感覚。自分の思考に自分の心が付いていけない。
ぐるぐると思考の小部屋でうろついていたらポンポンと肩を叩かれる感覚でバッとした。叩かれた感覚の残る右肩を見れば男性のものらしい手が置かれている。その手を辿れば貴島さんの心配そうな顔と出会った。「京子ちゃん、どうしたの?」と聞かれてきょとんと貴島さんを眺めていると「大丈夫かい?」とまた心配そうな表情できかれちゃった。私は出口のない思考の小部屋から出してくれた貴島さんに感謝した。「はい、ありがとうございます!」と笑うと貴島さんから人懐っこい笑顔が帰ってきた。上野くんの笑顔そっくりだった。