撮影中****
海を眺めながらため息を一つ。まゆみは混乱していた。実の母に背を向けられた事はまゆみの心を深く大きくえぐった。何かの絵本で読んだ、『悪い子は嫌われる。』『いい子にしてないと捨てられる』などというセンテンス。そんな言葉に触れる度に『私が悪い子だったから…』『いい子じゃないから…』と自分を責める気持ちが頭をもたげてきた。だからまゆみは思った。我儘は言わない。お養父さんとお養母さんのいう事はちゃんと聞く。そうすれば嫌われない。捨てられたりしない。そうしたらお養父さんもお養母さんも笑ってくれるから…。そしてまゆみはずっといい子を演じてきた。養父が好きだと言ったピアノを習い、養母の勧めで茶道と華道を習った。両養親の望んだ一貫教育の学校に幼等部から通い、成績は常にトップクラスを維持した。大学は養母の母校に勧められるままに進学した。もともと多才な子供だったのだろう。まゆみは養父母の期待にそれ以上の結果で答えてきた。そんなまゆみを養父母は自慢の娘と喜んでくれた。その喜ぶ顔が見たくてまゆみは努力を惜しまなかった。今まで、そしてこれからもそうやって養父母の期待に答えて、養父母の敷いたレールの上を進んでいけば全てが上手く行くとまゆみは信じて疑わなかった。
なのに養母の言った『したい事や将来の夢』にまゆみは答える事が出来なかった。まゆみに問いかけた時の養母の目はまゆみの答えを期待を込めて待っていた。まゆみが俯いてしまったのはその視線に耐えられなかったから。「ありません」と答える事で養母をがっかりさせてしまうのがとても怖かった。その一言で嫌われてしまうのではないかと感じた。こんな空っぽの自分など、誰にも好かれたりはしないのではないかと思った。養母はまゆみの態度を違う意味に受け取ってくれたらしく、返事をせずに済んだことはまゆみには幸運だった。だが、養父が言った『気になる相手』という言葉はまたもまゆみを闇に突き落とした。言われてすぐに浮かぶ顔があった事に驚いた。そしてそれが養父の望む答えではない事をまゆみは知っていた。そしてまゆみは横に首を振ることで養父の期待に答えて、自分の中に芽生えた気持ちを否定した。それが『いい子』の答えで、そうでなければここにらいられなくなるとまゆみは思ったからだ。養父はあの時確かにほっとした顔を見せた。それはまゆみの答えが正しかった証拠。なのに素直に喜べないまゆみがここにいる。
海を眺めながらため息を一つ。まゆみは混乱していた。実の母に背を向けられた事はまゆみの心を深く大きくえぐった。何かの絵本で読んだ、『悪い子は嫌われる。』『いい子にしてないと捨てられる』などというセンテンス。そんな言葉に触れる度に『私が悪い子だったから…』『いい子じゃないから…』と自分を責める気持ちが頭をもたげてきた。だからまゆみは思った。我儘は言わない。お養父さんとお養母さんのいう事はちゃんと聞く。そうすれば嫌われない。捨てられたりしない。そうしたらお養父さんもお養母さんも笑ってくれるから…。そしてまゆみはずっといい子を演じてきた。養父が好きだと言ったピアノを習い、養母の勧めで茶道と華道を習った。両養親の望んだ一貫教育の学校に幼等部から通い、成績は常にトップクラスを維持した。大学は養母の母校に勧められるままに進学した。もともと多才な子供だったのだろう。まゆみは養父母の期待にそれ以上の結果で答えてきた。そんなまゆみを養父母は自慢の娘と喜んでくれた。その喜ぶ顔が見たくてまゆみは努力を惜しまなかった。今まで、そしてこれからもそうやって養父母の期待に答えて、養父母の敷いたレールの上を進んでいけば全てが上手く行くとまゆみは信じて疑わなかった。
なのに養母の言った『したい事や将来の夢』にまゆみは答える事が出来なかった。まゆみに問いかけた時の養母の目はまゆみの答えを期待を込めて待っていた。まゆみが俯いてしまったのはその視線に耐えられなかったから。「ありません」と答える事で養母をがっかりさせてしまうのがとても怖かった。その一言で嫌われてしまうのではないかと感じた。こんな空っぽの自分など、誰にも好かれたりはしないのではないかと思った。養母はまゆみの態度を違う意味に受け取ってくれたらしく、返事をせずに済んだことはまゆみには幸運だった。だが、養父が言った『気になる相手』という言葉はまたもまゆみを闇に突き落とした。言われてすぐに浮かぶ顔があった事に驚いた。そしてそれが養父の望む答えではない事をまゆみは知っていた。そしてまゆみは横に首を振ることで養父の期待に答えて、自分の中に芽生えた気持ちを否定した。それが『いい子』の答えで、そうでなければここにらいられなくなるとまゆみは思ったからだ。養父はあの時確かにほっとした顔を見せた。それはまゆみの答えが正しかった証拠。なのに素直に喜べないまゆみがここにいる。