サイド蓮
まゆみの育った街を見るために横浜市内をドライブする事になった。俺もキョーコちゃんも横浜は初体験。記憶を失う前も仕事以外では来た事がないと社さんから聞いた。横浜といえば、幕末の日本が鎖国を解いた時に、最初に開いた湊町。中央を守るために全てを受け入れて共存する事を余儀なくされた街。それ故に古きよき時代と現代が絶妙なバランスで解け合っているという印象を受ける。キョーコちゃんも日本にいながら中世ヨーロッパにトリップしてきたような街並みに眼をキラキラさせていた。山下公園を通り、海が見える丘公園から海を眺めて一息いれた。海を見るのも久しぶりな気がする。まゆみはこんな街に育ったんだなぁと思うとなんだか不思議な気分になった。横浜はやはり都会で、東京ほどではないが日本全国の人達が憧れる街の一つだ。だが、まゆみには東京ではなく横浜が似合うような気がする。横浜だからこそまゆみはいる事が出来たのではないかとさえ思えてくる。特に根拠がある訳ではないが、この街の多国籍な感じと、その全てをよしとして落ち着いた雰囲気に、そんな安心感を覚えているのかもしれない。
車は外人墓地を廻って邸宅街に入る。都会の中の閑静な住宅街。はしゃいでいたキョーコちゃんがふと黙り込んだ。俺が声をかけても気づかない。今彼女は思考の小部屋に入ってしまったようだ。こうなったら自分で出てくるまで待つしかなくなる。彼女は思考の小部屋から出てくる時には何か凄いものを手にして出てくるから、今回は何を手にしてくるのかすごく楽しみだ。
集合時間が近付いて、俺達は撮影現場に戻った。二時間弱のドライブは凄く有意義で楽しいものだった。雨もあがり、黄昏時に上野がまゆみを送るシーンは撮影出来そうだ。二人は歩き始める位置に立つ。駅からゆるやかな坂を登って、さっき車で通ってきた住宅街にさしかかる。二人の他愛ない会話が心地いいシーン。監督の意向でみのるの車にまゆみが気づくまでノーカットで撮影するらしい。最寄り駅から数分間、のんびり歩きながらの会話。学校で会って話しているのとは少し違う近い距離と違う角度。まゆみは多分この時初めて上野を上野として見るのだろう。そして二人の穏やかな時間は二人の心の距離まで近づけてしまうのではないか?みのるにはない上野の穏やかな空気はまゆみを癒すだろう。そんな考えに俺は焦りを感じた。そしてスタッフと打ち合わせをしている二人を、上野和樹を睨むように見つめた。
まゆみの育った街を見るために横浜市内をドライブする事になった。俺もキョーコちゃんも横浜は初体験。記憶を失う前も仕事以外では来た事がないと社さんから聞いた。横浜といえば、幕末の日本が鎖国を解いた時に、最初に開いた湊町。中央を守るために全てを受け入れて共存する事を余儀なくされた街。それ故に古きよき時代と現代が絶妙なバランスで解け合っているという印象を受ける。キョーコちゃんも日本にいながら中世ヨーロッパにトリップしてきたような街並みに眼をキラキラさせていた。山下公園を通り、海が見える丘公園から海を眺めて一息いれた。海を見るのも久しぶりな気がする。まゆみはこんな街に育ったんだなぁと思うとなんだか不思議な気分になった。横浜はやはり都会で、東京ほどではないが日本全国の人達が憧れる街の一つだ。だが、まゆみには東京ではなく横浜が似合うような気がする。横浜だからこそまゆみはいる事が出来たのではないかとさえ思えてくる。特に根拠がある訳ではないが、この街の多国籍な感じと、その全てをよしとして落ち着いた雰囲気に、そんな安心感を覚えているのかもしれない。
車は外人墓地を廻って邸宅街に入る。都会の中の閑静な住宅街。はしゃいでいたキョーコちゃんがふと黙り込んだ。俺が声をかけても気づかない。今彼女は思考の小部屋に入ってしまったようだ。こうなったら自分で出てくるまで待つしかなくなる。彼女は思考の小部屋から出てくる時には何か凄いものを手にして出てくるから、今回は何を手にしてくるのかすごく楽しみだ。
集合時間が近付いて、俺達は撮影現場に戻った。二時間弱のドライブは凄く有意義で楽しいものだった。雨もあがり、黄昏時に上野がまゆみを送るシーンは撮影出来そうだ。二人は歩き始める位置に立つ。駅からゆるやかな坂を登って、さっき車で通ってきた住宅街にさしかかる。二人の他愛ない会話が心地いいシーン。監督の意向でみのるの車にまゆみが気づくまでノーカットで撮影するらしい。最寄り駅から数分間、のんびり歩きながらの会話。学校で会って話しているのとは少し違う近い距離と違う角度。まゆみは多分この時初めて上野を上野として見るのだろう。そして二人の穏やかな時間は二人の心の距離まで近づけてしまうのではないか?みのるにはない上野の穏やかな空気はまゆみを癒すだろう。そんな考えに俺は焦りを感じた。そしてスタッフと打ち合わせをしている二人を、上野和樹を睨むように見つめた。