蓮は社に促されてさっきのドリンクコーナーでのキョーコとのやり取りを話す。そのやり取りにデジャブーを感じていた事、知らないはずのキョーコの嗜好を自分が自然に指摘していた事、そしてなんとなくその時の事を思い出した事を話す。隣のキョーコも蓮の言葉に頷いて「私もそうなんですよ!」と嬉しそうだ。二人のその報告に社もなんだか嬉しくなる。二人が所謂『お付き合い』を始める前からずっと見てきた社。スケジュール調整やラブミー部への依頼など、主に蓮の為に色々骨を折ってきた。その苦労が報われたと思った矢先の事故に二人の記憶喪失。社は誰にも言えなかったが相当ダメージを受けていた。二人の関係が以前より良好だったのでそれも一つの形かもと自分を納得させてはいたが、周りも含めて思い出して欲しいと思っていた。無理強いは出来ないし、それを求めるのは二人にはかなり酷な話だから、ただ、見守る事しか出来ない自分が歯がゆくて悔しかった。
今、ここに来て少しだが記憶の扉が開こうとしている。それもごく自然な形で二人の想いが重なるような形で。社は一人で舞い上がって小躍りしそうな勢いでウキウキ浮かれていた。こんなにウキウキするのは本当に久しぶりだ。

「あ、雨…ですね?」キョーコのその声に男性三人がそれぞれに車窓から空を見上げる。いつの間にか低い雲が立ち込めていた。ぽつりぽつりと落ち始めた滴はだんだんと数を増し、やがてしとしとと全てを濡らし始めた。
「天気が悪いと撮影延期かなぁ…?」社が呟くと皆もう一度空を見上げる。

「そろそろ向かいましょうか?」
セバスチャンが腕時計を確認してからそう声をかけると「「「よろしくお願いします。」」」と三人の声が重なる。車はゆっくりとサービスエリアを後にして走り出した。