「敦賀様、もう程なく事故現場ですが、立ち寄られますか?」
セバスチャンの声にびくんと反応したのはキョーコの体。蓮はその体を抱き寄せたままキョーコの顔を覗き込む。
「いつかはちゃんと向き合わなきゃならないんだ。二人一緒なら怖くないよ。」と出来るだけ優しく穏やかに話しかける。キョーコはそれでも少しの間躊躇していたか「はい」と小さく頷いた。
「蓮、無理しなくていいんだぞ。」「いえ、立ち寄っていただけますか?いつかは越えなければならない障害です。社さんにセバスチャンがいてくれる方がありがたいですから。」
「解りました。では、事故現場に向かいます。敦賀様が車を停めてらした場所に停めますので。」「はい、よろしくお願いします。」

セバスチャンは左側にウィンカーをだし、落ち着いたハンドル裁きでサービスエリアに車を滑り込ませる。そして、広い駐車スペースで左奥の駐車場に車を停めた。
「この位置でございます、」
そう告げるとセバスチャンはエンジンを切り、みな車から降りて周りをキョロキョロと見回す。蓮はすっとキョーコの隣に立ち、不安げに周りを見るキョーコの手に自分の手をそっと重ねた。キョーコは少し驚いて蓮を見上げる。蓮が笑顔で小さく頷くとキョーコもなんとか笑顔を返す事ができた。社はそんな二人を無言で見守っている。
「喉が渇きましたね、何か買いにいきませんか?」と蓮の提案で一行はドリンクコーナーに向かう。蓮は帽子を目深に被ってサングラスをかけて一目では『敦賀蓮』と解らないようにしている。社、セバスチャン共にスーツを着てサラリーマン風。その三人を並べて見てキョーコは思う。こんなクオリティの高い男性が三人もドリンクコーナーなんかに行けば人目を引いてしまう。『敦賀蓮』だとばれなくても悪目立ちする…。
「あの、飲み物なら私が買ってきますっ!」と声をあげると男性三人が驚いて振り返る。
「だって、みなさん格好良すぎて悪目立ちするんですもの…。」語尾が小さくなったのは自分だけ別世界の住人なのだと感じる程の男性陣のレベルの高さのせいだ。
「飲み物調達はマネージャーの仕事でございますから。」「そうだよ、キョーコちゃんの分も買ってくるよ?」「俺だって軽く変装してるから目立たないよ?」と三人に言われるがキョーコは納得出来ない。
「えっと…」と言い澱んで俯くキョーコの肩を蓮は優しく抱き寄せる。
「俺達二人で行きます。当時の再現にもなるんでしょ?」