サイド新開

ほぉ、あの三人なかなか嵌まり役なんだよなぁ。最初、宝田社長にこのドラマのオファーを持っていった時には微妙な顔をされたからちょっと心配していたんだが、あの二人は想定外にいい仕事をしてくれている。蓮は目をハート型にしながら『敦賀蓮』クオリティを保つために平静を装うのに必死だ。対する京子ちゃんは蓮からのアプローチに翻弄されつつも自分の立ち位置を必死に見極めようとしている。二人の間にある微妙の距離。これがなんとも絶妙なバランスを保っている。そう、まんまみのるとまゆみの雰囲気だ。
もう一人、想定外にいい仕事をしてくれる男、貴島くん。飄々として軽いキャラ。女性陣からの人気も高い。だが、ひと度仕事となるとその真剣な取り組み様にさすがだと思わされる。蓮と肩を並べる若手俳優の名はだてではないんだと実感する。そんな貴島くんが京子ちゃんに興味を持ったからまた面白い。まるで上野和樹そのものじゃないか。これって俺の人選のなせる業?
俺って何気に凄くないか?

周りの共演者やスタッフ達はそんな三人に毎回はらはらドキドキだ。中には「ドラマの本編よりリアルで面白い」なんて失礼な事を口走るやつらもいるくらいだ。まぁ、実は俺も楽しんではいるんだがな。

宝田社長が話していた。「蓮も京子も事故の後ちょっと不安定だ。蓮は時たま『敦賀蓮』が剥がれるし、京子は『思考の小部屋』に入り込む…。」
確かに、蓮は京子ちゃん絡みの事で周りを威嚇しているし、京子ちゃんは固まって動かなくなる時がある。あれは二人の素の部分なんだろう。事故の後どうしてその素の部分を垣間見せるようになったのか、それまでのあいつらがなぜその部分を隠していたのかは解らないが、そんな事は大きな問題ではない。今は、俺の作る世界であいつらがいきいきと動けている。役柄と役者がシンクロして、よりいいモノが出来上がっていく。そのプロセスが何よりも大事だ。ただ、蓮にあんな表情をさせてしまう京子ちゃんってやっぱり凄いなぁと思う。ダークムーンで嘉月が美月に向けた『恋する男の顔』を凌ぐ顔をむけている。その艶かしい表情にさえ動じる事なく演技に集中する京子ちゃん、ありゃ相当の大物だよな。周りで何人もの女性達が失神したりする中、ダイレクトにその表情と気持ちを向けられているのに自分の仕事をきっちりやりとげる。出会った頃