サイド蓮

今日は貴島くんとキョーコちゃんのデートシーンの撮りがメインで、俺は見学と大義名分を使って動向している。楽しそうに過ごす二人は上野とまゆみだと言い聞かせるのがとても大変だ。キョーコちゃん自身が楽しんでいるのではないかと思うと胸の奥がムカムカする。
休憩に入るとキョーコちゃんはセバスチャンのところに戻ってくる。ミネラルウォーターとタオルを貰って俺に笑いかける。
「キョーコちゃん、順調そうだね?」「はい、凄く楽しいです!」
そう返される素直な言葉と笑顔は俺を引き付けて離さない。
「貴島さんって本当にボウリングお上手なんですよね。びっくりしました。」「キョーコちゃんもさまになってたよ、溝掃除。」「もぉっ!敦賀さんの意地悪っ!」
こんな他愛ない会話がとても心地いい。出来ればこの可愛らしい笑顔は俺が独り占めしておきたい。だが、今は渋々貴島くんに貸し出している気分だ。俺はキョーコちゃんの彼氏でもなんでもないのに、身勝手な独占欲は止められない。キョーコちゃんが傍にいるだけで安心できるのに、キョーコちゃんが少しでも離れると不安と苛立ちを覚える。かなり重症の依存症だ。そんな俺自身に苦笑するが、どうする事もできない。
午前中にスタジオで撮影出来るシーンを撮り終えて午後から移動。まゆみの家がある横浜の閑静な住宅街がロケ地だ。事故からこっち、俺達は初めて東京を離れる。しかも、事故にあったらしい場所を通る。俺はその事に不安を覚えていた。俺が不安を感じるのだ。キョーコちゃんが不安でない訳がない。社さんは勿論、セバスチャンもその事に配慮してくれて、横浜までの移動はセバスチャンの運転する車で四人で移動する事になっている。貴島くんは『そぉなのぉ?ロケバスで京子ちゃんと仲良くなれると思ってたのに、残念だよ。京子ちゃん、いつでも気が変わったらロケバスにおいでよ。敦賀くんより俺の方が楽しませてあげられるからねっ!』と貴島くんはキョーコちゃんに言い募る。そして、俺に視線を移して不適な笑みを浮かべる。俺は『敦賀蓮』の仮面を張り付けたまま立っているのがやっとだった。キョーコちゃんは「ありがとうございます。」と律儀に頭を下げる。「社長命令で、マネージャーから離れるなと言われてるんです。それから、敦賀さんがいらっしゃる時には同行するように、と…。」と申し訳なさそうに答えている。そんな彼女にホッと胸を撫で下ろす俺は情けない男だな…。