新開から台本の大幅な変更が告げられた。当初の予定ではみのるとまゆみは早々にくっついてキスシーンに向かうのだが、それまでの話を膨らませて、二人には爽やかないちゃらぶをさせる内容になると付け足された。
お茶の間ではドラマの放映が始まり、視聴率は最近ではあまりお目にかかれない数字を叩き出している。お茶の間からも今まであまり見られなかった蓮の表情や、自身に気持ちに振り回される等身大の青年の姿をもっと観たいという声が多かった。それは新開も同様で、脚本家にその提案をすると、ノリノリで筆を走らせたらしい。

キョーコは台本を読んで複雑な顔をした。友達以上恋人未満の状態で爽やかないちゃらぶなど、キョーコの知識には全く存在しない。いや、早々にあるはずだったキスシーンも勿論今のキョーコには初体験なのだが…。台本越しに蓮を盗み見ながら、その仕草の一つひとつに速鐘を打つ心臓に手を当てる。こんな緊張の連続、心臓がいくつあれば保ち堪えられるのだろうとキョーコは思う。蓮はといえば、台本の中のまゆみの可愛い姿を想像してウキウキしている。その姿がどうしても素のキョーコとシンクロしてしまうので少し困ってしまうが、どちらも可愛い女性であることには変わらないのだから、そんな事は些細なことだ。
新開監督は出演者と軽い打ち合わせを終えて、「10分休憩したら始めるぞ!」と言って立ち去った。出演者達は蓮とキョーコを中心に談笑を続けている。