「そういえば、私の友達って今はどうしているんでしょうか?」
撮影の休憩時間にお茶を飲みながらキョーコは何気なく疑問を口にした。
「モー子さんは『親友』だって言ってましたし、同じラブミー部の雨宮さんもお友達だろうし…。瑠璃子ちゃんとも仲良くなれたけど、以前はどうだったんだろう…。」
それは何気ない疑問。だが、気になりだすと止まらなくなる。「そもそも、私の両親って今は何処にいるんでしょうね…。」
事故にあってからゲストハウスでの療養を終えて仕事に復帰した蓮とキョーコ。それから早くも二週間以上が過ぎている。つまりは約1ヶ月経っている。しかし、蓮にもキョーコにも身内らしい人物は現れない。これまでは目先の事で必死になっていて気づきもしなかった事に、キョーコはまゆみ役を演じる事で気づいてしまった。
「社さん、何かご存知ないですか?」と目を輝かせて社に問うキョーコ。
「う~ん、俺はよく知らないんだよ。ごめんね…。」と返事を返して、社は気付かれないように眉を潜める。この中でキョーコの過去を知っているのは社だけだ。父親はいない、母親はネグレクト、つくして来た不破に捨てられて復讐を胸に誓って芸能界に入って来たキョーコはひとりぼっちだった。その事実を伝える訳には行かない。
「そうですか、残念です…。」あからさまにガッカリしたキョーコを蓮は心配そうに見やる。眉尻を下げてしょぼくれているキョーコに蓮は声をかけた。「俺達が事故にあったのは有名な話だから、日本にいれば大抵の人に伝わるよ。そして、俺達がこうして仕事をしていれば、遠く離れていても元気だと解る。俺達は芸能界に身をおいているからおいそれと里帰りもできないし、身内も訪ねて来るのは大変なんじゃないかな?」
「…はい」
「だからさ、俺達は俺達が出来る方法で、今俺達が元気だってアピールする事でみんなに安心してもらおうよ。」
「元気をアピールですか…。」「うん。今もし会ったとしても俺達だって困ってしまうからね?」
「…はい。」

キョーコはまだ納得してはいないようだが、蓮に言われてしまえば仕方ないと諦める他に手段を持たない。社は小さくため息を漏らして、蓮のフォローに感謝した。
蓮は感じていた。まだ、今はまだキョーコは自分の過去に向き合わない方がいいと。そこに何があるのかは知らないが、直感で、今のキョーコはまだ知らない方がいい、今のキョーコでは潰されてしまうと判断したのだ。