撮影中****
まゆみ回想
佐伯くんに腕を取られて歩きだしたその後ろで私達を引き留めようとする大きな声が聞こえたが、それはまた別の男性の声によって遮られた。私が困った時に助けに来る人が居るなんて本当にびっくりした。しかも来たのは佐伯くん…。いつも独りを好んで我関せずを徹底している彼が現れて、流れるような動作で私を連れ出してしまった。今まで見た事のない笑顔を見てしまった。後から来た上野くんを睨み付ける顔もなかなかどうして迫力がある。(あの人も感情を露に表現するんだなぁ…。いつも無表情で女の子を泣かせている所しか見てなかったし…。)
あの時私は強がって助けなんて必要なかったと言ってしまったけど、内心怖くて仕方がなかった。それをとやかくいう事もなく助けるだけで去っていった佐伯くんと上野くん、あの二人は今まで私の周りに集まって来た男性とは違うように思える。あの二人の穏やかな笑顔は私を値踏みする人達のそれとは全く違うものだ。それがとても嬉しかった。
それから広い学内であるにも関わらず、私は佐伯くん達とよく出会うようになった。学食や図書館、中庭などでちょくちょく見かける。見かければどちらからともなく声をかけて立ち話。たまには昼御飯を一緒に食べたりもするようになった。私はこんな日常を『楽しい』と感じている。小さな頃から母には満点を要求されていた。私には満点以外の点数は許されなかった。母が居なくなってからは養父母に嫌われたくなくて勉強した。いい点をとらなければ嫌われてしまうのではないかと今でも思っている。養父の薦めでこの大学を受験して大学生活を送っているが、同期の学生と関わっても今までそれほど『楽しい』と思える事がなかったように思う。みな私の資料やノートを見たいとか解らないところを教えて欲しいなどという人ばかりだったし…。
二人は違う。学部も違うし会った時に話すのは他愛もない事が殆ど。だけど、上野くんの『ナンパネタ』やバイト先でのエピソードには私も佐伯くんも息が苦しくなるほど笑わされてしまう。そこにはたた純粋に楽しい時間がある。利害も駆引きもない関係。これが友達というものなのだと思うと、初めて味わう感覚はちょっと恥ずかしい。佐伯くんや上野くんと別れる時には『また明日』と軽く手を振る。なんの約束も用事もない。でもまたいつでも会える距離がすごく心地いい。これが楽しいって事、小さな幸せなんだ。
まゆみ回想
佐伯くんに腕を取られて歩きだしたその後ろで私達を引き留めようとする大きな声が聞こえたが、それはまた別の男性の声によって遮られた。私が困った時に助けに来る人が居るなんて本当にびっくりした。しかも来たのは佐伯くん…。いつも独りを好んで我関せずを徹底している彼が現れて、流れるような動作で私を連れ出してしまった。今まで見た事のない笑顔を見てしまった。後から来た上野くんを睨み付ける顔もなかなかどうして迫力がある。(あの人も感情を露に表現するんだなぁ…。いつも無表情で女の子を泣かせている所しか見てなかったし…。)
あの時私は強がって助けなんて必要なかったと言ってしまったけど、内心怖くて仕方がなかった。それをとやかくいう事もなく助けるだけで去っていった佐伯くんと上野くん、あの二人は今まで私の周りに集まって来た男性とは違うように思える。あの二人の穏やかな笑顔は私を値踏みする人達のそれとは全く違うものだ。それがとても嬉しかった。
それから広い学内であるにも関わらず、私は佐伯くん達とよく出会うようになった。学食や図書館、中庭などでちょくちょく見かける。見かければどちらからともなく声をかけて立ち話。たまには昼御飯を一緒に食べたりもするようになった。私はこんな日常を『楽しい』と感じている。小さな頃から母には満点を要求されていた。私には満点以外の点数は許されなかった。母が居なくなってからは養父母に嫌われたくなくて勉強した。いい点をとらなければ嫌われてしまうのではないかと今でも思っている。養父の薦めでこの大学を受験して大学生活を送っているが、同期の学生と関わっても今までそれほど『楽しい』と思える事がなかったように思う。みな私の資料やノートを見たいとか解らないところを教えて欲しいなどという人ばかりだったし…。
二人は違う。学部も違うし会った時に話すのは他愛もない事が殆ど。だけど、上野くんの『ナンパネタ』やバイト先でのエピソードには私も佐伯くんも息が苦しくなるほど笑わされてしまう。そこにはたた純粋に楽しい時間がある。利害も駆引きもない関係。これが友達というものなのだと思うと、初めて味わう感覚はちょっと恥ずかしい。佐伯くんや上野くんと別れる時には『また明日』と軽く手を振る。なんの約束も用事もない。でもまたいつでも会える距離がすごく心地いい。これが楽しいって事、小さな幸せなんだ。