サイドキョーコ

「俺達はこのドラマの登場人物にかなり振り回されているんだよね?」パラパラと台本を捲りながら敦賀さんにそう問いかけられる。私はハッとして敦賀さんを見上げる。「あの、私…、プロ失格かもしれません。演技しているはずなのに、段々とまゆみの気持ちなのか私の気持ちなのか解らなくなって…、シンクロしてるというよりもまゆみが私自身のように感じてしまうんです。」「そうか、俺だけじゃないんだね?」「えっ!」「俺も、みのるがまるで俺自身のように感じてしまうんだよ。だから帰ってこれなくなる…。」
敦賀さんは昼間の撮影中の事を言ってるのかな?
「でも、そんなまゆみに私自身は否定的で、つまんない人だとか思ってしまうんです。だから、実は私自身がつまらない人間なんじゃないと考えてしまって…。」
私は小さくため息をつく。敦賀さんも同じようにため息をついて、「それも同じだよ。」と苦笑いする。不安が無くなったわけではないけど、こんな悩みを私だけでなく敦賀さんも感じていたという事実が私に安心を与えてくれる。
「俺達にとってこのドラマは試練なのかもしれないね?」「はい…。」「お互い、みのる、まゆみとうまく折り合いをつけられるようにならないと前に進めないのかも知れない…。」「折り合いですか?」「うん、引きずられない強いコアが必要なんだと想う。」「強いコア…。自分自身って事ですね?」「うん。」「そんなもの、私にあるんでしょうか…。」口に出してハッとした。コア…、自分を作る中心になるもの…。記憶というコアを失った私にはコアがないのと同じだ。そんな私がインパクトの強すぎるキャラクターに振り回されずに自分を保つ事など出来るのだろうか…。一気に不安が押し寄せてくる。
「今日の撮影で俺はキョーコちゃんに助けられたんだ。」と敦賀さんが呟く。「キョーコちゃんがあの時俺を呼び戻してくれなかったら、俺はみのるに飲まれて帰って来れなかったかも知れない…。だから、これからもキョーコちゃんに傍にいて欲しい。キョーコちゃんが俺のコア…なんだと想う。」「…、そんな」敦賀さんの不安げでらしくなく儚い表情に鼓動が大きく跳ねる。
「私も…、さっき敦賀さんに呼び戻してもらえなかったら…。」その後を想像すると怖くて考えるのを止めた。「私達、二人三脚ですね?」「そうだね。」「よろしくお願いします。」「うん、よろしく、大切な相棒さん。」「はい!」
私もクスッと笑って答えた。